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「大きい体育館っていいよねぇ。ちょっと散歩してこよーかな」
「ダメ。旭兄さんは方向音痴なんだから絶対に戻ってこられなくなる」
ふらふらとどこかに行こうとする旭さんのシャツの裾をがっちり掴んで、夕仁くんが席につなぎとめた。
このふたりを見ていると、どっちが兄なのかわからなくなるなぁ。
「じゃあさ、ピィちゃん、試合が終わったら真昼に会いに行こうよ」
「そうですね、ピィ先輩の手作り弁当って知ったらきっと泣きますよ!」
いや、泣くかなぁ、と首をかしげた瞬間、斜め後ろから勢いよく突き飛ばされてあたしは通路の床にべしゃっと倒れこんだ。首が曲がらない方向に圧力をかけられる。関節がこすれる嫌な音が耳の奥で響いた。
殺す気かっ!
振り返ると、ショートヘアやポニーテールの快活そうな女子の集団が、旭さんと夕仁くんに迫っているところだった。全員そろいもそろって背が高くすらっとしている。
「旭さま! 夕仁さま! お会いできて嬉しいですぅ~!」
この反応からして、おそらくうちの高校の人だろう。
彼女たちはあたしのことなどコバエ程度にしか思っていないらしい。先ほどまであたしが座っていた席をさりげなく奪い取って、三百六十度、一ミリの隙間もなくふたりを包囲している。
だけど、そんなコバエに優しく手を差し伸べてくれる人がいた。
「ことりちゃん、大丈夫?」
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