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あやちゃんと一緒に旭さんたちのほうへ戻ると、旭さんはおらず、夕仁くんだけが女子たちにもみくちゃにされていた。
少女漫画の王子様みたいな旭さんやきりっとした美少年の真昼と違って、夕仁くんはかわいい系なので年上の女子からのウケがいいようだ。
彼がひとつ咳払いでもしようものなら即座に「かわいい~!」と黄色い声が飛ぶ。「夕仁さまと呼んでくる女子が苦手」と彼が言っていたのも頷けた。
「みんな、男バレに挨拶してこないと」
あやちゃんが言うと、女子たちは渋々夕仁くんから離れた。もちろん去り際にあたしを睨むのも忘れずに。
あやちゃんたち女バレの集団が行ってしまうと、夕仁くんは心底疲れたように椅子の背もたれにぐでーんと身を預けた。
「旭さんはどうしたの?」
「トイレに行ったままもう十分も戻ってきません。迷子になるからってあれほど言ったのに」
「あたし探しに行ってくる。入れ違いになるといけないから夕仁くんはここにいて」
疲れきっている夕仁くんを席に残して、あたしはサブアリーナを出る。
あちこちのコートで三回戦の結果が出て、午後からの準々決勝の組み合わせが決まりつつあるようだ。通路は人でごった返している。うちの高校の名前が二重線で消されているのを苦い気持ちで眺めて、あたしはその脇を通り過ぎた。
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