第1ラウンド VS旭

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 サブアリーナの通路を一周、メインアリーナの通路を一周して探したものの旭さんはいない。  あたしは頭上のトイレ案内の看板を見上げた。あの看板をもう三度も見ている。予想が正しければ、廊下の角を曲がるとトイレがあるはずだ。  あたしは立ち止まってため息をついた。  どうりで旭さんが戻ってこられなくなるはずだ。ふたつのアリーナ同士が地下通路で繋がっているという妙に入り組んだ構造のせいで、あたしも道に迷ってしまった。情けないことにミイラとりがミイラになってしまったというわけだ。 「あの」  肩を叩かれてあたしは振り向いた。  ふにっ、と右頬に何か柔らかいものがささる。見れば、それは人差し指だった。もちろんこんなくだらないいたずらをするのは旭さんしかいない。 「やっぱりピィちゃんだ。みーっけ。探したんだよ?」 「探してたのはこっちですよ」 「ごめんごめん。トイレ行ったらどっちから来たかわからなくなって。出口どっちかなぁ」 「実はあたしも迷子なんです」  方向音痴ふたりで廊下に立ちつくす。あたりはしんと静まりかえっており、道を聞けそうな人はいない。 「夕仁に電話して道を聞こうにも、ここがどこかわからなきゃ意味ないしなぁ」
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