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その時、廊下の角を曲がった向こうから何やら会話が聞こえてきた。
話し声がするということはそこに人間がいるのだ。しかも二人以上。
あたしたちは観光客を見つけた野生の猿のように廊下を飛び出そうとしたが、その瞬間に響きわたった怒声を聞いてかろうじて踏みとどまった。
「なんなんですか、あのプレーは!」
廊下の角からそっとのぞくと、うちの高校のユニフォームを着た男子ふたりがトイレの前で睨み合っていた。
ひとりは真昼で、もうひとりはこちらに背を向けているから顔は見えないものの、ユニフォームの色が違っている。あやちゃんの言っていた「リベロの先輩」だ。
真昼が先輩に詰め寄る。
「なんで狙われて及び腰になってるんすか。なんで最後までボールを追いかけないんすか」
「仮にあれを拾えてたとしても十点差を覆すのは無理だったよ。春高に切り替えてこーぜ」
「負けた試合に言い訳してる人間が春高にベストコンディション持っていけると思えないです」
それを聞くと、リベロの先輩は舌打ちしてトイレのドアを力いっぱい蹴飛ばした。そのまま真昼の脇をすり抜けてあたしたちとは逆方向に向かって走っていく。
なんだか良くない雰囲気だ。道を聞くなら別の人を探したほうがいいかもしれない。
旭さんにそう伝えようとしたが、彼はすでに廊下の角から飛び出していた。
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