第1ラウンド VS旭

41/72
前へ
/253ページ
次へ
***  インターハイの日のことを、あたしはちょっぴり後悔している。あれ以来三兄弟からは特に何の連絡もない。  しかし、悩んでいようと後悔していようと時間は平等に過ぎていくものだ。気持ちの整理がつかないまま、次の出勤日が来てしまった。  真昼が家にいませんようにと必死で祈っていたのに、よりによってヤツは家の前で門にもたれかかっていた。その薄い唇はむすーっと引き結ばれて、眉間には名刺がはさめそうなほど深いシワが刻まれている。  あたしのことを待っていたのかと思って一瞬身構えたが、真昼はこちらをちらりとも見ない。 「家の中、入らないの?」 「精神統一」  あたしの質問に真昼は短くそう答えて、ほとんど閉じているといっても過言ではないくらい深く目を伏せた。よくわからないが、家の中に入るつもりはないらしい。  訝りながら、あたしはインターフォンを押す。 『はい』  知らない女の人の声が聞こえて、真昼の肩がびくっとはねた。 「あの、高橋ですけど……」 『ほら、この前話した新しい家政婦さんだよ』  旭さんの声も聞こえてくる。やけに親しげな話し方だ。もしかして、旭さんが彼女でも連れこんでいるのだろうか。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

122人が本棚に入れています
本棚に追加