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「ピィちゃん。今日はおれの部屋の掃除をお願いしてもいいかな?」
「はい。わかりました」
失礼します、と三兄弟のお母様に頭を下げて、旭さんに続いて階段を上がる。どうしてふたりはこの場を立ち去ろうとしているのだろうか。
その謎は、階段の踊り場をまわったところでわかった。
「ごめんなさい」
真昼がそう言ったのが聞こえた。小さな、語尾がかすれて消え入るような声だ。
幻聴じゃないかと自分の耳を疑ってあたしは足を止めた。
だって、苦楽を共にしてきた部活の先輩さえ冷たく突っぱねるようなあの真昼なのだ。常に自分が一番で、自分が六人いるチームだったらいいなんて言うくらいなのだ。誰かに謝ったりするはずない。
「真昼、あなた本当に何も成長してないのね」
お母様から鋭い叱責が飛ぶ。
詳しい内容までは聞き取れないが、どうやらインターハイでの真昼のプレーについて非難しているらしい。決して声を荒らげたり大声を出したりはしていないが、かなりの早口でまくしたてているため厳しく聞こえる。
「ピィちゃん」
固まって立ちつくしているあたしの手首を、旭さんが引いた。
「真昼、ピィちゃんには聞かれたくないと思うから行こうか」
「ごめんなさい。盗み聞きみたいになって」
「しばらくリビングに入らないほうがいいよ。母さんが帰ったら真昼は相当荒れると思う」
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