1.捨てられた窓

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1.捨てられた窓

――あなたの窓は捨てました。  実家から電話があった。  ふうん。  ふううん。  ふうん。  ふううん。  何十回か短く長くふうんを繰り返した。我ながら暇だ。夜勤明けの蛍ぐらいに暇だ。暇な男だ。 ――あの窓から、月が見えた。  消したままの薄型テレビに映る自分がちょっとイケてる。ラモーンズのバンドTが点けたテレビに現像されたら写真屋にノーベル賞を送る、つもりだ。ごくごく個人的に。  んだけど、実際にテレビを点けると、知らない誰かがクイズ王に負けている。王様に負ける一般人、今日も革命は起こらない。諦めてテレビを消す。僕はテレビを見ないで、僕を見ていればいい。捨てられた窓の弔いに、口笛でも吹いて。 ――あの窓から口笛が聴こえた。  そうだ。あの頃、兄の学ラン姿の証明写真が貼られたゴミ箱にティッシュを投げて、僕は聴いた。 ――あの、曲名が知りたいよ。  母さんにねだった。 ――知りませんよ。  母さんはまな板に包丁をリズミカルに叩きつけて、きっと暗に僕に曲名を伝えようとしていたのだ。しかし、リズムで音楽を判ずるのは難易度が高すぎてクイズ王もプロデューサーにバツを出す。 ――月も、口笛も、お隣の若い奥さんの裸も、捨てちまったっていうのか。  僕は月のことを思った。  僕があの窓から見ていた月のこと。  淡く、黄色く、雲を染めて、撫でて延ばした色が僕の伸ばした手の先に跳んでくるような気がした。テントウムシが爪の先で羽を広げる予見と同じぐらいに確信的に。  僕の窓は捨てられた。    
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