Loose

16/19
前へ
/19ページ
次へ
僕は生まれた病院をそのままかかりつけ医にしていたため、そこで診断を行った。恐らく入れ替わった相手も。その結果は単純にカルテ番号の通りそれぞれの家に通知されたのだが、それも入れ替わったままだったため、二人の結果も当然入れ替わっていた。 僕のベータ診断は相手のものであり、あちらにはオメガ診断の結果が通知されていた。 驚くのはその後だ。 僕の誤診が発覚した後病院はその原因を調べ、新生児の取り違いに気づいたのだけど、事もあろうにそれを隠蔽したのだ。 それに家族はもちろん僕も腹が立ったけど、事は今をときめくトップアイドルの兄弟のこと。これが公になったらマスコミが黙っているはずはない。病院に対してはかなり腹立たしく、納得はいかないけど、血が繋がっていなかったことに安堵したことも事実。それに相手もあまり騒ぎにはしたくないということもあって、色々な交渉や手続きは弁護士を通して水面下で速やかに行われた。 僕達の戸籍は本来在るべき形に戻され、僕は紙面上家族と他人になることになった。 僕はそれでいいけど、相手はどうなんだろう。それに両親も。 曲がりなりにも18年間育てた我が子が実は赤の他人で、本当の子は別の家族の元にいる。 僕は籍を分けないと瑠泉と瑠風との届けが出せないからそうしなければならなかったけど、相手はどうだったのかな? 知らなくてもいい事実を暴き、しなくてもいい苦悩を与えてしまったのではないか。 それに対して両親は、 『正直、親だもの。わが子に対する違和感はあったのよ。でもね、それでも腕の中にいる子は愛しくて、かけがえのない存在。例え違うと言われても手放す気はないわ。それに、わずかでも疑う気持ちを持ち続けているよりは、ちゃんと分かって良かった。それが分かっても、瑠羽は私たちの子供だって胸を張って思えるもの』 そう言って抱きしめてくれた。 僕も同じだった。 本当の親が実は他にいる。 そう言われても、僕は今の両親を親だと思っているし、正直会ったことも無い人は他人としか思えない。 でも、実際会ったら違うのかな? 血は水よりも濃い? 全ての手続きを済ます前、お互いの気持ちを確認するために対面の機会が設けられた。 実際会ったらやっぱりやめた、なんてことになるかもしれないから。 この日は瑠泉と瑠風も都合をつけて同席できたので、ホテルの個室で会うことになった。 最初は全員でご対面と思いきや、初めから本当の家族のみの対面となった。それぞれの家族が待つ部屋に一人で行くのだ。 指定された部屋に向かいながら、僕は罵られる覚悟もしていた。 こちらの両親はああ言ってくれたけど、あっちの両親は、もしかしたら余計なことをしたと怒っているかもしれない。 そう思いながらドアをノックして、そして開けた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

533人が本棚に入れています
本棚に追加