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「もう双子ぐらいでそんなにしんどそうにしないの。お母さんなんて三つ子だったのよ!」
確かに、これでもう一人お腹にいたら・・・。
「母さん、尊敬します」
僕が素直にそういうと、母は心持ち胸を張って『そうでしょう?』とご満悦。するとそこに今日は残業だった父が帰ってきて、僕の前にケーキの入った箱を置いた。
「瑠羽、お土産だ」
やっぱり痩せすぎを気にしてくれたみたいだけど、この時間にケーキは・・・。
その時ふと嫌な予感がして、僕はスマホを手に取り、メッセージを送った。
今やってた番組は生放送で今日はこれで終わりだって言ってたから、そろそろ帰り始める頃。
お土産はいらない、と二人にメッセージを送ったのだけど、時すでに遅し。美味しそうなプリンが入った箱の写真が送られてきた。
『もう買っちゃったよ。帰ったら食べようね』
写真は瑠泉から、テキストは瑠風から送られてきた。
昨日うっかりみんなのいるところで甘い物が食べたいと漏らしてしまったのだ。だってその時、テレビではスイーツ特集をしていてそれがとてもおいしそうだったんだもの。だけど、食べたかったのはそれを見ていた昨日のその時で、今はもう・・・。
だけど、みんな僕を心配してくれてるわけだし・・・。
と悩んでいると、母がすっと食べかけのカステラのお皿にラップをかけて下げてくれた。
「これは明日でも大丈夫だから、お父さんのケーキをいただきましょう」
その後二人が持ち帰ったプリンも母が有無を言わせず冷蔵庫にしまい、この日は父のケーキのみを食べて食後のデザートは終了した。
こんな一家団欒はいつぶりだろう。ここにもうすぐにぎやかな双子が加わる。産後落ち着いたらまたここを出る予定でいるけど、発情期には子供を預かってもらう予定にしているため、この家では手狭になるかも、と両親は住み替えを考えているらしい。母曰く、子供が双子だけなハズがないらしい。きっと保育園並みに賑やかになるそうだ。
瑠泉と瑠風はとりあえず事務所との契約が終わるまではこのままアイドルを続けるけど、その後は番と結婚を報告してファンに委ねるらしい。ファンが受け入れてくれれば続けるし、拒否られたらまたなにか仕事を探すんだって。当面の蓄えはあるから心配ないって言ってたけど、僕もちゃんと大学を卒業して仕事に就きたい。
それを母に言ったら、
「そんなこと、あの二人の前で言ってご覧なさい。きっとずっと家に閉じ込められちゃうわよ」
と、怖いことを言われた。
「瑠羽ほど自分を分かってない子はいないと思うの。お母さんでもこんなに心配なんだもの、あの二人にしたら、それこそ部屋に閉じ込めて鍵をかけたくなっちゃうと思うわ」
え?
なにそれ、怖い。
「・・・わかってない顔ね。あなたはあちらのパパさんそっくりって言ってるのよ」
あちらのパパさん?あのすごく綺麗なオメガのパパさん?
確かに髪と目と肌の色は似てたけど・・・。
「とにかく、瑠泉と瑠風には言っちゃダメよ」
と釘を刺された。
よく分からなかったけどとりあえず頷くと、母は満足した顔をして夕食の支度のためキッチンに入っていった。
今日は珍しくみんな早く帰ってくるって言ってたので、母は料理を張り切っている。僕も手伝いたかったけど、お腹が大きすぎて却って邪魔になるので大人しくリビングにいることにした。
もうすぐみんな帰ってきて、我が家のにぎやかな団欒が始まる。
了
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