Loose

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僕は普通が好きだ。 可もなく不可もなく、目立たず、何事も平凡に過ごしたい。 実際僕は何においても平均的だ。 顔も、体格も、勉強も、運動も。 人混みに紛れたら間違いなく埋没して、誰の印象にも残らない。それが僕だ。 中学二年で第二性の診断があった時、僕はベータの診断結果が出てとても喜んだことを覚えている。なのに中三の終わりにいきなり発情し、再診断の結果、僕はオメガであることが分かった。 そもそもなんで誤診断が出たのか分からないけど、見た目も能力も何もかもが普通すぎて誰もそれを疑ったりしなかった。 不幸中の幸いは発情した時に家にいたこと。これが街中だったらと思うと今でも恐怖で身が震える。 そんな僕は、実はオメガであったという事実に打ちのめされ、しばらく寝込んでしまった。オメガであると言うだけで世間から注目されてしまうのに、見た目が普通すぎてとてもオメガに見えないことがまた、人々の注目を集めてしまったのだ。 世間では第二性を公表しない風潮であるが、中学生においては例外だ。診断が行われるこの年頃の青少年は、第二性に関してかなり興味津々で、特にオメガの性に対する特性は恰好の噂の的だ。 見た目も綺麗で繊細で、それでいて性的魅力に溢れているのが世間一般のオメガに対するイメージなのに、僕ときたら本当に普通すぎるくらい普通で、好奇心旺盛な生徒たちを多分に漏れずがっかりさせてきた。それがいたたまれなくて、僕は不登校になり、逃げるように全寮制のオメガ専門高校に入学したのだった。 ここでの三年間は本当に平和だった。 生徒全員がオメガでなんの視線も感じないし、発情期になっても誰も気にしない。容姿は確かにみんな綺麗だったけど、僕に対して誰も何も言わずに普通に接してくれた。おまけに普通教育の他、オメガ専門の知識も教えてくれて、これから先の社会においての心構えなども知ることが出来た。 そんな平和で有意義な高校生活もあっと言う間に過ぎ、僕は今普通の大学生になった。 全寮制だった高校を卒業したので、本当だったら実家に戻るはずなのだけど、僕はそれが嫌で親に頭を下げて一人暮らしをさせてもらっている。だけど、学費以外は親に悪いので自分で稼いでいる。そのため今の僕の生活は大学とバイトの往復のみ。まあ、もともと目立ちたくないのでそれで全然構わないんだけどね。 大体のオメガは番のアルファを見つけて一生養ってもらうことを望んでいるけど、僕は一生番も持たず、結婚もしないで一人で暮らしたい。それが出来るだけの稼ぎがもらえる仕事に就くのが僕の今の目標だ。
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