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給料日後の数日の間に残業がいくつも重なるのは珍しい。しかし、上司から頼まれれば断るという選択肢は入社三年目の部下には無い。
あとは仕上げた書類を必要部数コピーして綴じるだけでよかった。それでも意外と時間がかかってしまった。小腹が空いたので、茜は引き出しから、盆休み明けに他部署の社員が皆に配った銘菓を出し、お茶を入れて、それを食べながらスマホでオンラインノベルサイトをチェックした。
「あ。更新されてるー。嬉しい」
そのサイトには――大人のラブロマンス――というのは表向きで、かなり濃い性描写がちりばめられた小説が投稿されている。無料で読めて、なかなかのクオリ ティの高いそれに、茜は気に入りの作家を何人か発掘していた。そしてその一人の毎金曜日の更新を楽しみにしていたのだ。
最新の更新記録を見つけ、いざそのページをタップしようとしたとき、接客ブースの向こうで頭が流れるようにこちらへ来るのが見えたと思うと、すぐにその角から姿が現れた。茜は咄嗟に掌でスマホを覆った。
三年先輩である、営業部の大林だった。彼は茜を見つけるとぎょっとしたように立ち尽くした。
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