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終ワリノ始マリ
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小さな雨音を響かせた外を眺めながら、私は昔の記憶を思い起こしていた……。
・・・
・・
・
『オギャー!』
私は60年前の今日、アムシャル国の王族として生まれた。たしかこの日も、小さな雨音が外を響かせていたという。
『おめでとうございます』
『ヴァーチュース王妃は男児を出産されました』
『オギャー』
『良かったな、ヴァチス』
『ええ、エクス』
私の母は[ヴァーチュース]といい、セラ国から父のために嫁いできたらしい。母は奇跡の力を持っているらしく、その力を使って死産になってしまうはずだった私を五体満足で産んだという。
『オギャー』
『おー、よしよし』
『ふふっ、エクスにそっくりですね』
そして私の父は[エクスシア]といい、このアムシャル国の王だ。父は戦争時に自らが指揮を取り、前線で戦っていたらしい。
『この子の名前は決まっているの?』
『ああ。この子の名前は、[シエル]だ。この国を太陽のように照らしてくれる存在になってくれるように』
私は王族に生まれて良かったと。今、この時でも思う事がある。
王族に生まれるだけで何不自由ない生活が約束されるのはもちろん、国王の息子ともなれば比べ物にならないほどの力を身につけることができる。
王族として生まれたからには国の仕事もしなければならない。だがそれはもちろんのこと、承知している。
だからこそ、私は
[この国の中で一番強くならなくてはいけない]
そう思ってしまうのだ……。
・
・・
・・・
「―か――陛下――、シエル陛下」
「――どうした」
「もうすぐ謁見の時間にございます。お支度を」
「わかった。すぐに向かう」
執事の声に気づかないほど思い出の中に入り込んでいたのか……。
重い腰を上げて従者を呼びつけて支度をする。最近、謁見の間に行くことが辛くなってきた。
そろそろ潮時なのかもしれない……。
「開けろ」
「はい」
鉄と木が入り混じったような、重く、古い扉を従者が押し開ける。
息苦しくなるような音を立てて、扉はゆっくりとその口を開いていく。その様子はまるで、私のような愚か者を地獄へ連れて行こうとする悪魔のようだ。
「「シエル陛下に万歳」」
多くの者が一列に並び、謁見の間で私を出迎えてくれている。だが、その目に光は無い。濁っている。
もう誰も、私のことをこの国の王だとは思っていないだろう。皆がこうなってしまったのは、私が魂を売ったからだ。
私が悪魔に魂を売ったことを城の人間、果ては隣国のセラ国にまで知れている。
そんな私のことを、皆は陰でこう呼んでいる。
[魂を売った愚王]
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