16人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
1-1.十一月のふわもこ羊
赤い落ち葉を踏みしめながら通学路を歩いていると、空から自転車のベルが聞こえた。
「おはよう、亜美ちゃん!」
見上げてみれば、となりの家のおばあちゃんが、自転車で青空に浮いている。
「おはようございます。今日はホウキじゃなくて、自転車なんですねー!」
めいっぱい大きな声を出したわたしに、おばあちゃんも「そうなのよー!」と返してくれた。
「こっちのほうが、安定するのよね。それじゃあ学校、行ってらっしゃい!」
おばあちゃんはハンドルを握りしめると、自転車で遠くへ飛んでいった。
魔法のまの字もないザ・凡人のわたしは、今日ものこのこ歩いて学校へ向かう。
わたしが住んでいる夢咲町は、魔法がある町だ。
隣のおばあちゃんみたいに空を飛べちゃう人がいたり、噂によれば、別の世界に行けるって人もいたりするらしい。
でも、魔法を使える人も万能ではなくて、過去に戻ったりとか、人の生死を変えたりとか大掛かりなことはできない。
お店の商品を盗んだりとか、テストのカンニングといった悪いことも不可能だ。
つまり、受験も完全な実力勝負……ゔっ、つらくなってきた。
中学の紺のブレザーが、鉛のように重さを増す。
話を魔法に戻そう。
魔法が使えない子たちは、
『わたしにも魔法がほしい! うらやましい!』
とよく言ってるけど、わたしは今のままでじゅうぶんだ。
魔法がなくても、これといったやりたいことがなくても、今日を平穏に過ごせれば大満足。
わたしはうんうんと頷きながら、落ち葉の山にうもれてうめいている羊のぬいぐるみを、さわやかにスルーした。
最初のコメントを投稿しよう!