第四話「年齢詐称も程がある」

16/23
59人が本棚に入れています
本棚に追加
/563ページ
「黒神くんも速かったね」 「…………俺は別に、」 「龍魔くん、すごかったね!」 「足速いんだね、かっこいー!」  勇輝の不機嫌な返事は、ぞろぞろと集まってきた他の生徒たちの声でかき消された。  シブキとしてはある意味失敗だったので、褒められても素直に喜べず、曖昧に笑っている。 「あー……ありがとな」 「………………む」 「いじけんなよ勇輝……」  ただでさえ良くなかった勇輝の機嫌はどんどん下がっていく。わかりやすいのは結構だが、正直ちょっと面倒だ。 「ほらほら、並べー! 二回目行くぞー!」  教師の声でようやく人の群れは散っていった。しかしそれで一息つけるかというとそうでもない。もう一走、残っている。 「……もうちっと抑えた方がいいかな」 「かえって不自然になるだろう。諦めてさっきと同じくらいでやれ」 「はー……全力出した方が楽なんだがなぁ」  憂鬱だが仕方がない。在籍を希望したのは自分自身なのだから、これくらいの苦労は惜しめない。  人間に紛れて生活するのも存外楽ではないものだと、ひしひしと感じたシブキであった。  空は紅に染まって、温かみを帯びたオレンジ色が校舎を照らす。  次々と帰宅していく生徒たちの中、勇輝と御神楽は昇降口で人を待っていた。  しばらくして、ようやく当人が現れた。少し急ぎ気味に靴を履き替え、二人と合流する。 「すまん、待たせた」 「遅い」 「まあまあ、シブキくんが悪いわけじゃないんだし。じゃ帰ろっか」  一万年を生きる龍であるシブキは、知識においても身体能力においても人間の比ではない。
/563ページ

最初のコメントを投稿しよう!