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「見えてるな」
宵闇は、俺らを振り返って言う。俺らは黙って頷く。
見えてるよ。このフロアにすし詰めになったファンが。もう、期待だけに染まった空気が。
「いつも通りだ。ここに客がいる。俺たちは、そのステージに立つ。何も変わらない」
宵闇のテンションは、いつも通りだ。冷静に見せかけて、腹ん中は業火が燃え盛ってる。俺は知ってるよ。今、お前に触れたら全身火傷の致命傷だろ。
燃えてんのは、宵闇だけじゃねぇ。俺もだ。熱くてたまらねぇ。それは、綺悧も朱雨も礼華も同じだ。薄暗い中で、それぞれの色の火が揺らめいてる。
ネット回線なんてハードルは、ハードルじゃねぇ。全国にベルノワールを飛び火させる導火線だ。おあつらえ向きだよ。何なら、この導火線は世界に繋がってんだ。
宵闇と目が合う。互いに視線で意志を確認する。同じこと、考えてんだろ?
「行こう」
「はい!」
返事をすると、各々楽器やマイクを手にする。俺はもう一度、軽くストレッチをする。
「5分押しいっくよー!」
いつもの軽いノリだけど、床嶋も楽しんでる。どこまでも、リアルで最高の音を届けてやるってよ。
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