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いよいよだ。初体験の無観客配信ライブ。
あのレンズの向こうに、客がいる。モニター用にこっち向けてるタブレットの画面がチカチカと蠢いてる。あれは、お前らの影だ。コメントは読めねぇ。けど、コールしてくれてんだろ。
「10秒前!」
来るぜ、開演時間が。
覚悟決めやがれ。
「5! 4! 3! 2! 1!」
0カウント。BGMがぱたりと途切れた。
同時に、イヤモニにクリックが流れ出す。
古ぼけたドアの閉まる音だけが響く。
「ようこそ、僕の実験室へ」
低く押し殺した、綺悧の声。
それより更に低く、地を這いずるようなベースが得体のしれねぇ生物みたいな唸り声をあげる。
それを引き裂く、朱雨のギターの金切り声。
「愛せないなら、殺しましょう」
初っ端から全力で踏み込むツーバス。
それを合図に安田くんが、ポータブルのサーチライトをカメラに向ける。これで一瞬画面がホワイトアウトする。すかさず、スタジオの照明を上げる。カメラの性能が良すぎて、秒で露光を調整しちまうから参ったけど、安田くんは必死でタイミングを掴んでくれた。
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