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(四)ー2
*
「そういえば」
長老が思い出したように口を開く。後ろに控えている鴉天狗たちの方を見た。
「誠閑。下が奴を見たとか」
「そうですね。ありました」
鴉天狗たちの淡々とした会話に朱莉たちも怪しむ。下、とは手下たちの事だろうと適当に当たりを付けるが、間違ってもないようだ。誠閑と呼ばれた鴉天狗が朱莉たちを見た。
「先日。うちのシマに倉林雅久に似たモノを見たと、部下からの報告が何件も上がって来ている」
「なんだと」
「確認は取れた?」
誠閑の言葉を聞いて驚く壱誓。朱莉は眉を顰め聞き返す。
ここにいる鴉天狗たちはその種族の中でも権力を持ち、特別広いわけではないが、それぞれ領地を管理している。確か誠閑が管理している領地は四課からそう遠くなかったはず。
かつて雅久が生活していた範囲のため、彼がこの辺りに存在している事自体は不思議ではないのだが、今の彼は追われる身。祓魔庁のお膝元は彼にとっても危険度が高い場所。身を潜め、この辺りからは姿を消すのが賢明ではあるが、捕まる危険を冒してまでこの近辺にいるのは何か策略があるからではないか。そんな考えが容易に出来る。
誠閑は首を横に振った。
「倉林雅久自身を知っている妖怪は少ない。ましてやお前たちと違い、限りなく妖怪に近い妖力だ。部下の話だと人型の妖怪である事は間違いないが、人間の気配もあったとだけ」
「うーん。写真あったかなー」
「倉林か一課の倉林長官に話をしてみましょう」
「………」
壱誓の提案に朱莉は頭を掻いた。億劫で仕方がない。一旦保留にする。
「まあ、それが倉林雅久にしろ、別のモノにしろ、ウチのシマでは見かけない奴だ」
「それは分かるんだ」
「常に警備が配置されている。出入りする妖怪は把握しているし、祓魔師に追われている妖怪であればこちらから事情も聞く。しかし追われている様子もなかった」
祓魔師が入れない領域であることから、祓魔師に追われる妖怪は鴉天狗の領域に逃げ込む事も多い。匿うだけならやぶさかではないが、鴉天狗も危険分子を野放しにしたくはないため、独自に妖怪から事情を聞く。場合によっては祓魔師に渡すし、自分たちで手を下す事もある。しかし誠閑の領域で見つけた妖怪は妖気以外は特に気にかける必要も無かったとの事。雅久である確証は得られない。
「そういう変わった奴って妖怪でも多いっけ?」
「他の妖怪を食って妖気が混じる事は仕方なし。お前らのように妖力を持った人間ではなく、人の気配を纏っている妖怪なんぞ儂らでも生きているうちに見られん方が普通だ」
「それだけ珍しいんですね」
「だとしたらますます倉林雅久の可能性が高いのでは?」
「うーん」
朱莉の明言しない雰囲気に壱誓が疑問に思うが、考えている時の朱莉に深く突っ込まない方が良さそうだという事は前々から知っている。…だからと言って何も言ってこないのは違う気もするが…。壱誓は聞き返すのを止めた。
「絃勝は息災か」
「ん?ああ、多分ね。最近家に帰ってないから分からないけど」
「…絃勝って?」
「長官の祖父にあたる方だ。晩年まで長く四課で隊員をされていたそうだが、だいぶ前に引退された。今は芹沢家の当代だ」
初めて聞く名前に華が壱誓に聞く。私生活的な部分は謎めている朱莉の事は華にとってはなんだか新鮮な気がした。
「何、じいさんと友だちにでもなったの?」
「そんなわけあるか。契約を結べども、人間は嫌いだ。長い付き合いだからといって情を沸かす事もない」
「そんな冷たい事言わなくてもいいじゃない。仲良くしましょうよ」
「ふん」
長老の返しに朱莉は苦笑する。
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