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(五)ー1
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「なんだかドタバタになっちゃいましたね」
「仕方あるまい」
虎太郎と水虎の話を聞きながら、和希は妖石を拾い、回収袋の巾着に入れた。まさか任務前に妖怪を退治する事になるとは。和希からすると、正直この後また妖退治に行くのが苦痛だ。
「おい。千里眼」
「え、僕?」
「お前以外に誰がいる」
まさかそんな、名前ですらない、能力で呼ばれると思わず、和希は驚いてしまったが、虎太郎以外には基本的に厳しい態度を取る水虎ならそう呼んできてもおかしくはない。悪口でもないので、和希はそのまま受け入れることにする。
「千里眼の鬼の技は全部使えるのか?」
「まあ、一応…。使える時間は短いけど…」
「すごいですよね!普通一人ひとつの妖術の会得がやっとなのに!先祖返りはその妖怪の妖術全部使えるんですか!?」
「いや、そうでもないみたい」
そうなんですか?という表情を浮かべる虎太郎に和希が説明する。
妖力を一つの箱に考えた時、その箱いっぱいの大きさのものを一つ入れるとする。これが先祖返りでない祓魔師の例。先祖返りが複数の妖術を使えるのは、その箱に仕切りをつけて何個も物を入れられる仕様になっているためだ。仕切りの数にも適性があり、先祖の妖怪が使える妖術全てが使えるとは限らない。先祖返りでない祓魔師も上手に使えば仕切りを付けられて二つ以上の妖術を会得する事が可能である。それには相当の努力と肉体の耐性も必要にはなるが。
妖術の威力については、例えば同じ妖力値の祓魔師が二人いて、片方は先祖返りだとする。二人の妖力値は一緒でも、一つの妖術に妖力を集中して込められる祓魔師と、一つの妖術に分割した妖力しか込められない先祖返りの祓魔師とでは、妖術の威力が違う。和希は自身の妖力値が低く、それを三分割して千里眼、透視、先見の妖術を使っている。攻撃性のある妖術ではないため攻撃的な威力という意味ではそもそも関係ないが、千里眼の鬼の場合は使用時間や使用範囲に制約がある。
「たくさんの妖術が使えるから良いってわけではないんですね!」
「妖術の会得に苦労はしない分、複数使うと威力が落ちたりするからね。祓魔師に工夫が必要って言われるのはそういう事なんだって」
「それで倉林さんは剣術が得意なんですね!」
急に褒められて和希も流石に照れてしまうが、満更でもない。正直ところ、剣術の稽古は本当にしんどい思いをしてきたので、褒められると素直に嬉しい。
虎太郎がふと、あれ、と疑問を口にした。
「芹沢長官も先祖返りですよ?いつも威力は爆発級ですよね!元々の妖力が大きいから?」
虎太郎の疑問に和希は少し困る。同じ先祖返りと言えど、正直他の家の先祖返りについて、和希自身が詳しいわけではなく、人から聞いた事しかないからだ。
「えっと…。さっき妖力を箱に例えたでしょ?」
和希は両手で小さな箱を表現した。
「これが僕の妖力だとするね。僕はこれくらいの箱を三分割してるんだ」
次に和希は両腕を大きく動かして空中に四角形を描く。
「確か、千手観音は四十ある腕の数と同じ妖術を持っていて、長官は全部使えるって聞いた事があるんだ」
「じゃあ、この箱を四十分割ですか!?」
食い気味に聞いてくるあたり、虎太郎はさらに朱莉への期待度を高めていた。その問いかけに和希は首を横に振る。
「僕の腕が足りないからこの大きさだけど。これくらいの妖力が一つの妖術に込められる妖力量」
「ていうことは?」
「芹沢長官の総妖力値はこれの四十倍。って昔、道場で聞いた事あったよ。あくまでもこれは例えなんだけど」
「!?!?」
衝撃の事実に虎太郎は本日二回目、雷に打たれた様な顔をした。その気持ちは和希も理解できる。自分が幼い頃に聞いた時もそんな人がいるのかと、朱莉本人の姿を見るまで信じられなかった。ちなみに水虎は朱莉の話が面白くないらしく、不機嫌な様子だ。
「僕が生まれた頃から遊んでもらっていたので、すごい人なのは知ってましたが、そこまでだなんて…」
「まあ妖力値の話は難しいしね。僕がその話を聞いたのも、同じ先祖返りだからって理由だったし」
千手観音の妖術とひと口に言えど、剣や盾、槍、錫杖など武器については何か特別な技が出るわけではなく、こうした物理攻撃に関しては術者本人の実力次第。持ち運び可能の武器庫を持っているようなものだ。人並外れた不可思議な妖術も多種多様で和希はまだ全てを見た事はないが、千手観音の持つ持物に準えられているとだけは知っている。
「すごいですね、水虎くん!」
「ふん」
水虎は朱莉の話が気に入らないようで不機嫌だ。
「どうして急に僕の妖術の事聞いたの?」
和希は水虎の方を向いて、先程水虎が質問してきた真意を聞いた。水虎は、ふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「大した事ではない。千里眼の鬼に知り合いがいるだけだ」
「そうなんだ」
水虎の言葉に気になるものがあったが、あまり気にしない事にした。というのも、倉林家と千里眼の鬼は関係が深いようで、実は妖力を分けられただけという案外浅いものだったりするからだ。妖力を分け与える条件で倉林家はあまり千里眼の鬼との接触を図っていない。そのため和希自身も千里眼の鬼族という妖怪は実際には見た事がない。水虎の知り合いに千里眼の鬼がいると聞いても、和希的にいまひとつピンと来ていないというのが正直なところ。
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