(一)ー3

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(一)ー3

*  和希が六歳の頃。  百貨店に家族で来ていた和希は家族とはぐれてしまい、一人店内をさまよっていた。  その時、目の前を一人の女の子が和希の前を通り過ぎた。和希より背が高かったからか、年上に見えた少女は白いワンピースと銀色の髪をなびかせ歩いていた。  彼女が一人でいた事もあり、自分と歳が近い人との方が話しやすく、助けを求めやすいと和希は彼女の後を追う。  彼女に足取りを向けた矢先、和希は何故か一瞬立ち止まった。なんだろう、その違和感もすぐに消え去り、再び踏み出そうとした次の瞬間、自分の足が自分の意思で動いている気がしなかった。確かに足を動かしている自覚はあるのに、彼女に寄ろうとして歩いているはずなのに、まるで歩かされているかのような足。  彼女の所まで後二、三歩という所で止まる。自分の意思なのか、それすらもわからない感覚に段々と恐怖を感じてきた。ゆっくりと彼女が振り返る。  とても綺麗な目をしていた。透き通った青い瞳。綺麗に見えるはずのそれも何故か不気味だ。そう感じた時に和希は踵を返そうと本能的に思っても、足が動かない状態になっていた。 『あら、綺麗な目をしているのね』  彼女は和希に向かって静かに言った。その声は頭に直接響くような気持ち悪さがあり、和希の恐怖を煽る。足が動かない。はっきりと分かる。動かさせてもらえない。 『良いご馳走』  彼女がそう言った瞬間、彼女の綺麗な銀色の髪がうねりだし、綺麗だったはずの目がぐるぐると渦巻いた。  妖怪。和希が気づいた時には遅く、パン!と破裂音がした。  和希は驚いて目をパチパチと瞬かせる。目の前にいたはずの彼女はいなくなっていた。  呆然としていると妖怪の気配を感じて駆けつけてきた父、和雅に事情を説明した。和雅は慌てて和希を連れて家に帰り、呪術師を呼んだ。わけも分からず目を調べられ、しばらく和雅と呪術師が深刻そうに話し込む。そしてやっと和希の方を向いて口を開いた。  目玉しゃぶりの呪い。  妖怪目玉しゃぶりは文字通り目玉を餌とする妖怪。人の目に呪いをかけ、呪いを受けたものは数日のうちに病気になり、死ぬ。その死体からは目玉が何故か無くなり、消えた目玉は目玉しゃぶりの元へ行くという。  つまり、和希が出会った少女は目玉しゃぶりで、和希は目玉しゃぶりの呪いを受けたという。和希が気付けなかったのは、少女の姿をした目玉しゃぶりが元々の妖力を誤魔化し、人間に紛れていたから。奴に興味を持ち、テリトリーに入ってきた人間を逃さないようにする術を使うらしく、和希はそれにかかったようだ。確かに恐ろしく大事ではあるが、呪いを受けたのであれば、解けばいい。そのための呪術師だ。が、二人はここからが深刻だと言わんばかりに口を重く開く。 『解けないんだ』  父とも長い交遊関係にある呪術師は腕利きの人物だと、和希も幼いながらに知っている。そんな人が解けないとはどういうことだろうか。和希の心が不安に包まれていく。  原因は和希の千里眼にあった。呪い自体は人体における眼球にかかっているため、直接的な因果関係はない。しかし千里眼の能力も目を媒体としている事から、なんらかの影響を受けて呪いの発動が膠着してしまっている。そのため外部から解くことが不可能になってしまっているらしい。現時点での解呪方法は不明。呪いをかけた当事者である目玉しゃぶりもこの場合の解呪方法を知っているかどうか怪しい。とにかくレアケースなのだ。  解けないという最悪の事態と同時に、和希の体質のおかげで呪いが発動しないという事が不幸中の幸いというべきだろう。発動しないという事は死なないという事。しかし呪いがかかったままでいるのも事実。しかしいつどのように何がきっかけで呪いが発動するかわからない状態。発動しないのならそのままにしとけば良いのだが、いつ発動するかわからない状態も良いとは言えない。むしろ被呪者の今後の精神状態を考えれば悪い。  解呪の最も有力な説が目玉しゃぶりの撃退。そして奴が持つ妖石が鍵になるのではないか。今はそんな憶測しか立てられない。和希の周りを祓魔師で守る人員は確保出来ないし、異変に気付いた目玉しゃぶりが突然和希の前に現れるかもしれないことも予測して、和希を家系であるという事以上に祓魔師として育てる事が得策であると判断した。
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