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(一)ー4
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「ふう…」
昔の頃は度々思い出す。思い出したくなくても、鮮明にこびりついたあの記憶は離れてくれない。あの日以来、和希は妖怪を見る度、あの時の恐怖を思い出してしまい、妖怪を見るのも怖くなった。だが、両親の事も考え、懸命に稽古に励み、早期入庁は見送りつつもちゃんと祓魔庁に入庁した。
朝食もインスタントのカフェオレと食パン一枚で済ませる。夢の所為か、食欲が出ない。祓魔庁の制服に腕を通し、身支度を終え、刀が入ったケースを背負う。
普段なら平日で和希は学校。しかし今日は祝日で平日は勤務を免れている和希は土日祝が主な出勤日。
パタン。ドアを閉め、鍵をかけた。そしてドアに背を向けた。かと思ったら、和希はその場にへたり込んでしまった。
(準備したけど…………行きたくない……)
入庁して早半年。それなりに任務もこなしてきたが、やはり妖怪との遭遇は避けたい。出勤すれば妖怪と遭うも同然。行きたくない気持ちが湧き上がるのも当然だ。
『なんで分かってくれないんだ!』
「…………」
ふと頭の中によぎった言葉で我に返る。その言葉を言ったのは、和希の兄、雅久だ。
祓魔師だった彼も、今はいない。
和希は今、その事を考えても仕方がないと思って立ち上がる。そして今考えた事を振り払うように寮の廊下を歩き出した。
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