(二)ー1

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(二)ー1

(二) 「以上が報告に上がった、妖天穴が二箇所、または本来の妖力量に見合わない大きさの妖石を持つ妖怪の資料です」  壱誓が長官である朱莉の机に資料を積み上げる。つい数日前、妖怪の異変に気付き、まずは自分たちの課だけで資料を集めようという話になったのだが、優秀な副官が一気に資料を集めてしまい、すぐに洗い出しが終わったので、余裕を持って他の課の資料集めでもしようかと、朱莉がのんびり考えていたところ、優秀な副官が今、目の前に持ってきたというわけだ。…本当に優秀だ。  朱莉がボールペンで紙の山を突く。 「もうそろそろデジタル化考えない?」 「まだまだ無理でしょうね」  壱誓の返しにため息が出る。  「ウチだけでもまあまああるなって思ってたけど、全課でこんなあるの」 「妖天穴が二つのモノに関しては捕食妖怪がほとんどです。妖石の大きさは個体差だと思われたようですね」 「妖石の大きさは妖力の大きさとは関係なく、ほとんど同じなのにねえ。あっても誤差の範囲。それに気付かないのは長官連中が報告書確認怠ってる証拠じゃない」 「目立った動きがない上に人間に対しての被害が減っていたからでは?」 「妖力を増やしたら、それを保有するためのキャパ増やすために肉体強化で人間食べるでしょ。今は大人しくても反動がでかい事を予想しなきゃね」  朱莉は再び大きくため息を吐く。調査が進んでいくにつれて他の課との連携もしていなかねければいけない。少し気が重いが仕方がないかと諦めた時、引き戸の扉がガラッと開いた。 「おはようございます…」  か細い弱った声で和希が執務室に入ってくる。確か今日和希はデスワーク当番で少し早めに来てもらったのだが、明らか体調が悪そうに見える彼の姿に朱莉と壱誓はギョッとする。 「おはよう…。何かあったの?」 「いえ…ただちょっと、夢見が悪くて…」  そうなのか、と二人は和希を気の毒に見る。壱誓は黙って携帯食を和希に渡した。物言いが厳しい所もあるが、こうした優しさはしっかりある先輩を見て、和希は少し笑顔になる。 「おはようございます‼︎」  和希の後ろから元気のいい声が聞こえる。三人が入口を見ると、虎太郎がトレードマークの双葉のようなアホ毛をピョコピョコさせて、にっこりと笑って立っていた。  朱莉は虎太郎が制服を着ているのを見て不思議に思った。 「虎太郎、今日休みでしょ?」 「はい‼︎お休みです!スイコくんの所へ行く約束です!長官!」  虎太郎はいつも以上にテンションが高い。前から楽しみにしていた予定らしく、その予定には朱莉も同行するようだが…。 「あ」  完全に忘れていたであろう朱莉の声。その声に壱誓と和希は嫌な予感がしていた。 「忘れてた」 「…⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」  先程までニコニコしていたのに、雷にでも打たれたような、声にならない驚いた顔をする虎太郎。頭の双葉が萎れるを和希と壱誓はしっかりと見た。。  今日、朱莉が本来休みだからこその約束だったのだろうが、見ての通りの出勤中。普段から休日出勤が多い上司を見て、壱誓は頭を押さえ、ぶつぶつと休日出勤する朱莉に小声で文句を言っている。 「えっと…あの…ごめん、虎太郎」 「…いえ…だいじょうぶ、です…」  明らかに落ち込む虎太郎。流石の朱莉も慌てふためく。和希も壱誓もこればかりはフォローが出来ない。  朱莉がキョロキョロする。和希もこんな朱莉を初めて見るため、少し面白くなってしまった。その時、和希は朱莉と目が合ってしまった。彼女は和希をビシィ!と指で差した。 「倉林!」 「はい?」 「虎太郎!倉林連れて行きな!道は分かるでしょ?」 「え」 「いいんですか⁉︎倉林さん!」  虎太郎が倉林を期待の眼差しで見る。あまりにも急な事だが、和希はこの純粋な眼差しに押されそうだ。 「夕方からの任務までに帰っておいで。デスクワークはこっちでなんとかするし!」 「は?」  朱莉の言葉に、間髪入れず発声した壱誓が睨むが、彼女は気にしない。  和希は申し訳ない気持ちを持ちつつも、余程今日という日を楽しみにしていたのであろう虎太郎の希望にも応えたい気持ちが湧き上がってくる。 「分かりました」  優しく微笑む和希に虎太郎はやったー!と飛び跳ねた。
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