(二)ー2

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(二)ー2

* 『今日のニュースです。昨夜東京都〇〇エリアにおいて妖怪の出没が確認されました。祓魔庁は付近の住民に帰宅は早めに、そして夕方からの外出を控える事を願い出た上で調査を進めています』  ニュースが響き渡る。大画面に映し出される情報を和希は歩きながらチラリと見た。 「私妖怪って見たことないんだけど」 「ほんとにいんの?って感じだよね」  通りすがりの女性二人の会話が聞こえた。一般人の妖怪に対する認識など、現代においてそんなもの。います。いるんです。自分も怖いし、危険だから目の前に持ってくる事は出来ませんが、いるんです。声を大にして言いたい気持ちを抑えて和希は先を歩く虎太郎を追いかける。 「♪〜」 「こ、虎太郎くん、どこ行くの?」 「これから電車に乗ってから、七つ先の駅で降りて、山に入ります!」 「山!?」  虎太郎はなんでもないという顔で歩いて行く。昼間だからこそまだ良いだろうが、山なんて妖怪が多く生息する場所だ。もし遭遇でもしたら…。なんて考えて和希は胃に少し痛みを感じる。一応刀を持ってきて良かった…それだけが救いだ。  二人は駅に着き、そのまま各駅停車の電車に乗った。祝日の昼間だが、運良く座れ、二人はそのまま電車に揺られる。 「ところで、スイコくんって虎太郎くんの友達?」  和希は先程聞いた名前を口にする。虎太郎とは同期入庁の数少ない仲間である事と、年下な事もあって、他の隊員より仲が良かったりする。彼自身が親しみやすい性格のお陰で和希も気兼ねなく話し掛ける事が出来る。虎太郎は嬉しそうに、にっこりと笑って頷いた。 「はい!たまにしか会えないんですけど、今日は祓魔庁に入った報告も兼ねて!」 「へえ」  祓魔師をしている事をしっかり話せる友だちのようで、和希は少し驚く。  祓魔師は特殊な職業である事と妖力の事は秘匿のため、隠しこそしないが、自ら進んで祓魔師をしている事を口にはしない。詳しい事を聞かれれると少々厄介だからだ。和希も学校では聞かれてもサラッと流すだけであまり多くは語っていない。対して虎太郎の雰囲気から察するに、詳しくは言っていないにしろ、ちゃんと祓魔師の事を話せる友人であるという事が窺える。 「そういえば虎太郎くんは芹沢長官と昔からの知り合いなの?」  和希はもう一つ、前々から思っていた事を聞いてみた。新人の和希が苗字で呼ばれるのに対し、虎太郎の事は初めから名前で呼ばれている事から考えて、二人は前々からの知り合いであると言う事はなんとなく察していた。しかし源流名家が違う二人がどういった繋がりなのかは分からなかった。 「はい!佐々木家は昔から育成課に在籍している祓魔師が多くて、道場を開いてる人もよくいるんです!おじいちゃんが育成課の教官時代の門下生が芹沢長官です!僕にとっては姉弟子っていうんですかね!小さい頃からよく遊んでもらってました!」 「そうなんだ…。芹沢長官は佐々木門下なんだね」 「一般的だと斎藤家筋の道場に入るはずなんですけど、何か理由があるみたいです!でも僕は芹沢長官たちに僕の家の道場に来てもらえて嬉しいですよ!」  祓魔師の家に生まれた子どもはその妖力をコントロールするため、妖術を身に付けるため、加えて剣術体術を学ぶため、祓魔庁育成課が運営している道場に通う。基本的にはそれぞれ自分の本家となる源流名家が担当している道場に通う。和希も自分の家、倉林家の道場でコントロールを学んだ。同じ妖力を得ている事からコントロールを教える際、妖術会得の際にアドバイスがしやすい事もあり、大体の子どもは自分の源流名家の道場に通う。必ずしも本家筋の道場でないといけない、という事はなく、師事したい祓魔師がいる場合や、立地、評判など様々な理由で他の本家筋の道場に通う事もできる。 「今も道場してるの?徳爺さん、四課にいるけど…」  和希は四課最年長の佐々木徳次郎の姿を思い出す。四課内で徳爺と愛称で呼ばれ、腰が曲がった老人で妖力も小さいと聞く。見た感じでは戦闘が出来るタイプには見えないという印象。あまり話した事がないため、そこまで彼に詳しいわけではないが、虎太郎の祖父である事は知っていた。 「今はお父さんが道場で教官長をしています!おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなってからずっと落ち込んでて、芹沢長官が長官に就任した時、四課に引き入れたんです!」  朱莉が引き入れた、と聞いて和希はその光景が想像できてしまった。 『うじうじしてるくらいなら前線出ろ、ジジイ!』 「…へえ…」  思わず顔が引き攣った。
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