(三)ー1

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(三)ー1

(三) 「ぶえっくしゅ!」 「風邪ですか?最近寒くなってきましたもんね!」  和希の先を歩く虎太郎が振り返った。十月も中旬。昼間の暖かさは日によって感じられるが、今日は少し寒さを感じる。加えて今、和希たちがいるのは山の中。高い山では無いが、地上から少しの標高でもかなり寒さがある。しかし今の和希のくしゃみは何か違うような気がしたが、和希は気にしないことにした。 「虎太郎くんは風の子って感じだよね」 「僕はいつも元気です!もうすぐです!あ、あそこの池!」 「池?」  虎太郎が先にある池を指差す。和希は虎太郎の後ろから覗くように見ると、楕円形の池があった。周りには草が生い茂り、人が住んでいる場所には見えない。和希は虎太郎の友だちの家に遊びに行くものだと思っていたが、どうやら違うらしい。ここで待ち合わせのようだ。それにしてもこんな山の中とは…。 「スイコくーん!」 ーがさっ 「!?!?」  水辺の草を分けて出てきたその姿に和希は驚愕した。    背丈は三歳くらいの子ども。着物を纏い、耳は魚のエラのような形。吊り上がった目に縦長で緑色をした瞳。明らかに人間ではない。 「中々来れなくてごめんなさい!」 「構わん。それはなんだ」  虎太郎に謝られるソレは鋭い視線で虎太郎の後ろにいる和希を睨んだ。見た目に合わないやや低めの声と古めかしく偉そうな口調がさらに人間味を無くしていく。  虎太郎はにっこり元気良く、震えている和希を紹介した。 「今日は芹沢長官が来れなくて…僕と同期入庁の倉林さんです!」 「鬼の匂いがする」 「倉林さんは千里眼の鬼の先祖返りなのでその匂いかな?」 「こ、こた、虎太郎、くん!?!?よ、妖怪だよね!?!?ねえ!?!?ええ!?」  和希は普通に会話を繰り広げる虎太郎の後ろに慌てて隠れた。背丈こそ虎太郎より小さいが、喋る人型の妖怪。かなり知能が高い分類である事が分かる上に口調からかなりの長命であると予測できる。長命である事は妖怪では妖力が大きい事の証明である。小さいからといって油断できない妖怪だ。   「倉林さん!大丈夫ですよ!水虎くんは僕の友達です!」 「と、とも…っ!?」 「お前、本当に千里眼の鬼か?何か違う匂いがするぞ」 「ひいいい!来ないでええ!」  和希のあまりの怯え方に虎太郎も宥めるが、妖怪と友だちというさらに衝撃の言葉に和希は気を失いそうになる。  水虎くんと呼ばれたそれは池の縁に沿ってこちらに歩いてくる。   「水虎くん!倉林さんは妖怪がちょっと苦手なんです!だからあんまり怖がらせないであげてください!」 「む。怖がらせてなどいない。あれが勝手に怯えるのだ」  虎太郎のちょっとという言葉もどうかと思うが、水虎も気にせず二人の元へやって来る。よく見ると水虎の頬には魚の鱗のようなアザが見える。水虎は河童の類で、水辺の妖怪だ。見た目からも水辺で生活している事が窺える。  和希は虎太郎の影からそっと水虎を見る。虎太郎が水虎に会いに来たという事は、二人は前からの知り合いという事。人間と妖怪が打ち解け合っている光景を和希は見た事がない。 「虎太郎くん…と、友だちって…契約関係とかじゃなくて?」 「はい!僕と水虎くんは友だちですよ!」 「ふん。誰が人間なんかと契約を結ぶか」  二人の言葉に圧倒され、和希は開いた口が塞がらない。妖怪と友だちなんて聞いた事がないし、ましてや自分には縁遠い話だ。 「あ、今日は水虎くんが好きなポテチ持ってきましたよ!」 「む。そうか」  驚愕する和希を置いて、二人は適当な場所に座り、持ってきたポテチの袋を開けた。 (スイコくんって………妖怪の水虎…ポテチ……)
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