1:運命の人

1/7
前へ
/64ページ
次へ

1:運命の人

いつからこうなったのか、そのあたりの記憶は定かではないけれど、気づけばそういう体質になっていた。 異性からの好意を感じると、途端にその人のことが気持ち悪くなる。 自分自身がその人に対して好意を感じていた場合でも、相手からの好意を感じ取った瞬間に拒否反応を起こしてしまう。 好きだと思っていたのに、自分の気持ちがころっと変わる。 私は自分の中でこの現象を「病気」と呼んでいた。 好意を寄せていた相手から告白されて、本当ならここで気持ちが一気に盛り上がるところなのに、私は一気にトーンダウンしてしまう。 しかしながら、「冷めてしまいました」だなんてそんなこと、口が裂けても言えない。 私自身、好意のある素振りを見せていたし、きっとそういう私の反応を見て、告白してくれたのだ。 そう思えば、自分の無責任な態度にも非がある。 向こうが告白してくるまでに、自分の気持ちがライクなのかラブなのか、見極めることができなかった私自身が悪い。 そう思ってとりあえずは付き合うのだけれど、結局相手に対する私の感情がプラスの方向に動くこともなく、数か月ともたずに関係は終わる。 どんなにお酒が回っていても、どんなにいいムードでも、好きでもない男の顔が近くまで迫ってきたら、反射でその顔を押し返してしまうのだ。 そして、THE END. 「俺のこと、好きじゃないよな。」と見事に胸中を言い当てられて、振られるのがお決まりのパターン。 そういうことが何度も続いていくうちに、私にはきっと恋愛は向いていないのだと思うようになった。 自分で自分の気持ちが信じられない。 好きだったはずなのに、嫌悪感すら抱いてしまう。 随分とバカなことを言っているのは承知で、それでも結構深刻に悩んでいた私は、友人に相談してみたこともあった。 しかしながら友人から返ってきたのは、「それは本当の恋をしてないんだよ!」「本当に人のこと好きになったことある?」なんていう、今の私にはハードルの高すぎる答え。 “本当の恋”“本当に好きになる”なんて、そんな恋愛の奥深いところにまで思いを巡らせる余裕は、今の私には無い。 友人から散々恋愛論を聞かされた私の中にかろうじて残ったのは、“私の好きはラブじゃない”ということだった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加