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 誰も、いないのだった。  誰もいない見捨てられた町、だった。  わたし、はだしで、歩いていた。  世界の斜陽、という感じだった。  全部ほろんだあとだった。  黄色がかった、茶色、が、照らしていた。  でも、違うかも、しれない。  建物。三角の屋根。煉瓦づくり。窓枠はアーチ。  傍に海。浸食、している。  誰も、いないのだった。  違うかもしれない。  たぶん、もう、わたしは戻れない。  もうわたしの目? あたま、は、世界をふつうには、見ない。  見捨ててしまった。  わたしの目は、わたしを。  わたしのあたまは、わたしを。  もう、やんなってしまったから。  あいそ、尽きてしまったから。  付き合いきれない、わたしには。  なんか、もう、だめだから。  わたし、わたしにすら、わたしだから、だめなわけ。  においも音も、しないのだった。  違うかもしれない。  わたしは、正しくない。  見えているもの、聞こえているもの、おかしい。  わたしのあたまがおかし、だから。  はだしで歩いた。  海、浸食、している。  ここにいないのに、猫がいる。  猫が、見たことある顔をして、いる。  妹の人面。  妹?  いないとおもう、んだけど。いたっけ?  違うかもしれない。  おんなはいた。  嫌いだった。  愛してやらないと誓った。  思い知らせてやらなくてはならないので。  おかしいでしょう。だって。  猫が妹の顔をしている。  違うかもしれない。  お前がいいおもいをするなんて。  幸せに生まれてきたのなら、わたしが、思い知らせてやらなくてはならないので。  妹の顔をした猫が頬をすり寄せる。  世界の、だれもが、お前を、お前を愛しても、わたしは、わたしは、絶対 に、お前のそんざいを、認めない、ので。  お前は恵まれて生まれてきたのだから、お前は、これから不幸にならなくて はならない。  だけど、他の誰かがやらないのなら、わたしが、お前を、突き落としてやる から。  お前、お前の、お前、お前は、考えたことがあるの?  お前は、わたしの、何を知っている?  街の中に石の橋が架かっている。  橋の先には壁がある。  わたしは、ほんとうはどこを、歩いて。  も、見えない、から。  見たくない、ので。  聞きたくない、お前、のそんざいを。  お前、お前が、幸せになるのが、たまらなく、認められない。  お前はわたしがいることで不幸になればいい。  わたし、お前の幸福を、一度も、一度も認めない。  違うかもしれない。  お前がすきよ。  お前は何よりおぞましい。  妹はわたしだっけ?  誰も、いないのだった。  足首を波が掴んでいた。  わたしのあたまは、もう、ほんとのものは、みてくれない。  違うかもしれない。  ほんとのものなんて、あったっけ?  わたしは、はじめから、見ていたのだっけ。  なにを?  ああ妹がわたしに口づける。  お前の舌を挽き潰してやる。  も、付き合いきれない、って。  誰もいない。
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