西へ

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 エルフは森と共に生きてきた。森で育まれる多様な生き物たちから受ける恵みが彼らを支え、加護を持った植物が森の環境を守ってきた。森には時々、マモノと呼ばれる、人々を脅かす存在が入り込んでいたが、多くは森の管理者である植物たちによって排除されていた。この恵みと守りのバランスによってエルフの森は長期的に安定した土地であった。  エルフの人々は安定した森の中で穏やかに過ごし、森の恵みに感謝し、加護を持つ植物とバランスを保ちながら生活の基礎を築いてきた。加護を持つ植物は危機を感じた時だけ動くと言われているが、今ではその活動を目にする者は少ないという。それはエルフの森が比較的安全であるからなのか、エルフたちが森の奥まで進むことをしないからなのかは定かではない。  城下に外部の種族が辿り着くことは珍しく、いつからかエルフの森は迷いの森とも呼ばれるようになっていた。そんな迷いの森を安全に移動するために造られた道がある。その道はヒト族を中心として造られ、エルフが活動できる範囲は広がった。初め、神聖な森を汚すということで反発もあったようだが、サラマンドラ同盟の一件で厳重な管理をすることを旨とし承認された。一番大きな街道は南北を縦断しており、北はヒト族の交流が盛んで南は他種族の交流のために使われた。南北どちらも大きな門が入口になっており、今でもその堅牢さからエルフ領内に無断で入ろうとする者はいない。  全盛期には整備された小さな道が何十本かあったらしい。しかし、ハイン国として統一され平和になると、使われない事も多くなり、いつの間にか動く植物によって道は塞がれてしまった。  今、ケイトとミーナが進もうとしている道はその塞がれてしまった道を含んでいて、二人は迷ってからそのことに気付いたようだった。
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