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円形に整えられた丘の上で休憩しながら、ケイトは地図を確認して湧き水の情報を書き込んだ。そして、再び林道を進む。道は緩やかな下りになっており、木に囲まれると影の塔は視界から消えていく。
明るいうちに森を抜けられそうだと、ケイトが言うとミーナはこくりと頷いた。下りの道も柔らかな光が覗いていて、明るい森であることがわかる。
順調に歩みを進めていた二人だったが、突然ケイトが足を止めた。それに気づかずミーナがケイトのバックパックに顔をぶつける。
「いてっ!急に止まんなよ」
ミーナが鼻を抑えながらケイトの背中に声を発する。ミーナが動かない背中越しに道の先を見ると、踏み固められた土の先は茂みになっていた。
「道が塞がってる」
ケイトの言葉通り、道の先は青々とした下草と木々が目の前に広がっていた。どこかで間違えたかなと、頭に手を触れる。ミーナは道は一本しかなかったことを伝えると、二人は噂に聞く加護を持つ植物の仕業だと結論付けた。
「もっと森の奥に出ると思っていたのに」
道が塞がれていても二人が冷静だったのは、加護を持つ植物の話を所々で聞く機会があったからだった。もちろん、その対処の 方法も聞いていて、森に住むエルフであったら小さい頃から何度も聞かされている内容だ。
ケイトは伝え聞いた方法に従い、トッドがいつもしてくれたように魔石を使って柔らかな風を送った。ふわっと二人の髪が揺れると、木々の葉の擦れる音が広がる。二人はそらから草木の様子を眺めていたが、いくら待っても植物が動き出す気配がなかった。ミーナはしびれを切らして木の枝で下草を払い始めた。加護を持った植物にはできるだけ刺激を与えないほうがよいと言われていたので、ケイトは慌ててミーナを止めに入った。切れた下草から濃い緑が香ると、二人の背中から柔らかな風が吹く。相変わらず、道の先の植物たちに変化はなかった。
「そもそも加護を持った植物なんていないんじゃないか?」
ミーナは目の前の草を叩きながら、エルフ領で当たり前に語られる植物について疑問を持ち始めているようだった。エルフ領に伝わる植物の話は小さい子供が深い森に迷い込まない為の怖い逸話なのかもしれない。ミーナの様子を見ていたケイトは目の前に広がる違和感を拭えないでいた。整えられた林道の先が不自然な程に青々としている。
止まっていても何も変わらないため、二人は一度引き返すことを決めた。元来た道を引き返すと再びケイトが足を止める。
「いって!今度は何だよ!」
ミーナが鼻を押さえると、ケイトはデジャブと口にした。ミーナはなんの事かわからずに、口を開けている。彼女が眉間に皺を寄せながら前を見ると、元来た道が草木に覆われていた。
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