結婚と純愛

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 それからね、戦争が終わって20年。あっという間だったような、ものすごく長い時間だったような。そんな月日が流れた頃、信じられないようなことが起きたの。あの、柳川太郎さんがね、ついに戻ってきたのよ! いえ、太郎さんがそのまま生きてたっていう意味じゃなくて。太郎さんの魂がね、生きて、そして再生したの。    その人は当時19歳で、郷田丈二さんというんだけど、いまのあなたみたいにね、お仕事の関係でこの町にきたの。その頃さち姉ちゃんはここからほど近い実家に住んでてね。その日は氏神さまにお参りする日で、あたしとさち姉ちゃんは神社にいたの。そこでふたりは、出会った。  向こうから歩いてくる郷田丈二さんを一目みたあたしは、思わず息をのんだわ。その人はさち姉ちゃんが肌身はなさず持ち歩いて大切にしてた、今ではすっかり古ぼけた一枚の写真の中にいる、あの柳川太郎さんにうりふたつだったんですから! 生まれ変わり。もうそうとしかいいようがない。ただね、髪の色と目の色がね、違っていたんですけども。  ふたりはしばらく佇んだまま何もいわずに見つめあい、大粒の涙をこぼしながらそっと歩み寄ってしっかりと抱きあったの。そばでみていたあたしも震えた。太郎さんはね、やっぱり約束を守ってくれたんです。  でもその時のさち姉ちゃんは37歳、19歳の郷田丈二さんとはまるで親子ほどの年齢差。そういうの、今ではそんなにめずらしくもないのかしら。でもね、当時はね、それは許されないことだったのよ。  やっと再会できた運命のふたりはもちろん結婚したくて、それぞれの家に許しを請うた。でもどちらの家でも、親戚じゅうがこぞって大反対をして。でもね、さち姉ちゃんは、やっと太郎さんが帰ってきたのに、みんなひどいって、仲のよかったあたしのところに来てさめざめと泣くのよ。郷田丈二さんももちろん一緒にやってきて、姉ちゃんの腕をやさしくさすりながら、なんとも愛情深く憐れむような目でなぐさめてた。      あたし? あたしはもちろん、さち姉ちゃんの、いえふたりの味方でしたとも。あんなわからずやの親戚連中なんてほっといて、ふたりでどこへでも行きなさいと、運命にしたがって生きていったらいいんだと、焚きつけたのはこのあたし。だってさち姉ちゃんがどれだけ太郎さんのことを想っているかずっとみてたし聞いてたし、それに郷田丈二さんという人はね、あたしの目からみても、やっぱりあの太郎さんだって確信があったのよ。  太郎さんはね、きっとね、戦地で亡くなったんでしょうけど、どうしてもさち姉ちゃんにあいたくて、約束を果たしたくて、神様にようくようくお頼みしてすぐに生まれ変わったに違いない。じゃなきゃ説明のつかないことが多すぎるもの。柳川太郎さんじゃなきゃ知りえないことを、郷田丈二さんはスラスラと言ってのけたりしたんですから。  まあこんな化学万能の、コンピューターでなんでも割り切れる世の中みたいですけども、それでもやっぱり説明のつかないことってあるものよ。
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