結婚と純愛

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 とにかく若い恋人どうしはそんな風にして、清らかな愛をそっと育んでいったのね。あたしもさち姉ちゃんにくっついて、ちょくちょくその方、柳川太郎さんっていうんだけどね、いっしょに会いにいってたのよ。あたしったらおじゃま虫? アハハそりゃそうよねえ。でもあたしもうれしかったのよ、大好きなさち姉ちゃんが大好きな男性(ひと)に会って、とってもしあわせそうにしてるのを見るのが、ね。それに柳川太郎さんはとってもいい人で、いやな顔ひとつせずあたしのこともかわいがってくれたのよ。  まあ戦争さえなかったらね、ふたりはそのまま結婚して幸せになってたんだと思う。でもね、戦争。男はみいんな兵隊に取られていくのよ。あなたに想像できるかしら? お国のために男たちは戦って、だまって死んでいくの。それも二十歳(はたち)前のね、まだ若い青年たちがよ。そんな時代だった。  でね、柳川太郎さんにもやっぱり赤紙が来て。その時戦争はもう終わりかけてたのね、あとからわかることだけど。その頃にはもう、すっかり負け戦だったってわけ。でも勇ましく出征していったわ彼。生きては戻れないだろうってこともわかってた。  さち姉ちゃんはそれでも、太郎さんはきっと私に会いに戻って来るって。かならず来るっていってたんだから間違いないんだって、そういうのよ。あたしも10歳の子どもでしたからね、姉ちゃんがいうならそうに違いないって信じてたわけ。それにあんなにやさしくてさち姉ちゃんを大切にしてる人が、うそなんかいうわけないとも思ってたからね。  それからほどなくして、終戦。太郎さんは戦死したと、連絡がきた。でもさち姉ちゃんはね、ぜんぜん悲しまないの。どころか、あの人はきっと帰って来るって、いって、聞かないの。  それでもとにかくあたしたち家族は戦後の混乱のなか、毎日を必死に生きなきゃならなくて子どもだったあたしも遊んでなんかいられない。闇市の手伝いやらして家計の足しにしてたわけ。敗戦国となった日本、すべての価値観が180度ひっくり返って、なあんにもない焼野原から、それでも歯を食いしばってなんとか暮らしを立てていったのよそこから、あたしたちは。    そうこうするうち、日本も復興して徐々に豊かになっていった。「もはや戦後ではない」なんていわれるようになってね。そしてあたしは人並みに結婚もして子どもにも恵まれ、とりあえず平穏な暮らしを手に入れたのよ。そっからまたいろいろあったけどまあその話はね、また今度。  それでもさち姉ちゃんだけはね、ずっと戦後のまんま。まるで時が止まってしまったみたいにずっと太郎さんを待ち続けて、どんなご縁もすべて断ってしまっていたの。あんまり頑なになってるものだから、まわりもついに説得をあきらめたわ。
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