結婚と純愛

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 周囲からどうしても結婚をゆるしてもらえなかったふたりはそれから意を決して、すべてを捨てる覚悟をもってアメリカに旅立ったの。というのもね、郷田丈二さんには半分アメリカ人の血が流れていて。お顔立ちは日本人にちかい感じでしたけど、肌は青みがかった白さで目の色は薄茶色、髪は癖のある赤毛だった。それでやっぱりね、お父さんの国に行ってみたいと。    いえ、父親の居場所どころか会ったことすらないらしいんですけどね。やはりそれは戦後の……彼のお母様、その時はすでに亡くなっていらしたけど、いろいろとご苦労があったみたいで。おそらくは米兵の、ね。そのあたり、くわしくは存じませんのよあたしも。でも戦後すぐのあの頃はね、とくに女には、いろいろあったんです。でも過去なんていいんですどうだって。生きてさえいればそれでいいの。そういう時代なんですから。  それでも生まれ育った日本という故郷を捨てて縁もゆかりもない、しかもかつて敵国だった地で暮らすってことは、すでに40歳になろうとしてたさち姉ちゃんにとってすごく勇気がいることだったの。海外に行くったって、いまと違ってホイホイ行けるような環境じゃなかったからねあの頃はまだ。それでもふたりはとても愛しあっていたから、それだからそんな無茶もできたのねきっと。それほどふたりの愛は、その絆は強かった。何ものにもかえがたいほどに。    それからふたりはアメリカの地で、そりゃあ苦労もあったみたいですけど晴れて結婚もして、終生仲良く暮らしたみたいよ。さち姉ちゃん、ついに日本には帰らなかったけど、あたしにはちょくちょく手紙をくれたのよ。ええ、亡くなってからはもう、10年? いえ、15年になるかしら。残念ながら子どもには恵まれずだったけど、ふたりだけの人生を歩んだのね。  えっと、そうそう、ちょっと待ってね、写真があるはず。うんとあれは、ああそうだわこの缶のなかに、ほらね。  郷田丈二さんは昨年亡くなるまでずっとアメリカで暮らしてて、さち姉ちゃんがいなくなってからも毎年、クリスマスには絵葉書なんか送ってくださったのよあたしに。メッセージの最後にはいつも、George & Sachiって、連名で署名をつけて。ほら見てちょうだい、きれいな絵葉書でしょう?   心の底から一途に愛する人と、生涯お互いのことだけを想いあい添いとげた夫婦。こんなに曇りのない、しあわせな結婚をした人は、あたしの周りにはちょっといないわねえ。
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