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第2話「天国の所在地」
「…俺と脱獄しないか?」
浩太の堂々とした誘いには流石に驚きを隠せなかった。ナンパをされた時と同じ気持ちになった。浩太はそのまま続けた。
「実は俺には娘がいるんだ。嫁に似てすごく可愛い。その娘に会いに行きたいんだ。」
「刑期は無期なのか?出所してから堂々と会えばいいじゃないか。」
「いや、5年後には出られるはずだ。未遂だから短くなったらしい。」
「なら刑期満了を待てよ。リスクを冒して脱獄するのは馬鹿だぞ。」
「俺だって更生してここを出たかったさ。怯えた銀行員の顔が忘れられなくてさ。でも、娘は病気を持ってるんだ。銀行強盗は元々その治療費を工面するためさ。嫁がどうにか工面して手は施してもらったみたいなんだが、それでも悪化してさ。もういくらも生きられないみたいなんだ。娘が死ぬ前に一目会って抱きしめてやりたいんだ。」
「なるほどな。俺はお前の今の話とその涙が信用できるかを判断して返事をすればいいんだな。」
「おおう…ドライだな。まぁ他人事だもんな。そういうことだ。明日の夜までには決めてくれ。」
「いや、そんなに時間はいらない。乗るよ。」
「マジか!ありがてぇ!実は俺馬鹿でさ、計画が全然思いつかねぇんだ。」
「考えはしたのか?」
「あぁ、もちろん。プリ○ン・ブレイクのマイケルみたいに、洗面台の裏に穴を開けて逃げようとしたんだがここの壁は硬くて壊れない。」
「…それは考えたうちに入るのか?」
「うるさいな。頼むぞマイケル。」
「了解だフェルナンド。数日くれ。」
夜が明けた。
「囚人共!朝だぜ!起きろ!」
看守の声で目が覚めた。房内を清掃し点検を受ける。その後朝食を食べた。他の受刑者が刑務作業に励む午前中、俺はここでの生活について副所長から説明を受けていた。
「…説明は以上だ。何か質問はあるか?」
「俺の刑務作業の配属先は?」
「家具工場だな。切り分けて、穴が空いた木材を組み立てていく。はじめのうちは簡易的な作りの家具を担当してもらうが、いずれ慣れたらもっと難しいのも手作りしてもらう。」
「答えてくれてありがとう。もうふたつ聞きたい。」
「なんだ?」
「朝飯がすごく少なかったが、昼飯はどうなんだ?」
「毎食少ない。10日に1回くる定期便の飛行機でしかお前らの飯が届かないからな。質もさしてよくないぞ。胃が弱いやつには地獄らしい。」
「ありがとう。ふたつ目だが、この刑務所はどこなんだ?やけに暑くて気になってる。」
「お前、昨日も別の刑務官に同じこと聞いてたらしいな。荒野の端くれとしか言えないよ。」
「そんなとこまで通ってるのか?大変だな。遅刻しないのか?」
「気遣ってくれてありがとうよ。遅刻は今のところない。午後からはお前も刑務作業だ。その前に食堂に行って少ない飯を食っておけ。」
「了解だボス。」
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