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昼休憩に入った。すぐに食べ終わったので余った時間は運動場に出た。足元は人工芝で、よじ登れそうにない高さの壁で囲まれている。更には上の方が反り返っていてここを登るのは現実的じゃなさそうだ。少しでも屋外感を出したかったのか、壁に沿うように植物が大量に植えられている。
「よう由一。説明はしっかり聞けたか。」
浩太が話しかけてきた。相変わらず気さくだ。
「あぁ。午後から刑務作業だと。お前はどこの担当なんだ?」
「靴工場で塗装をしてる。色々職を転々としててな。靴作りも経験してるんだ。手先の器用さには自信があるから、いい靴を作れるぜ。」
「器用とは意外だな。まぁまぁガタイが良いのに。」
「偏見がすごいな。」
「ところでここの植物はずっとあるのか?」
「俺が入った半年前にはもうあったな。壁に囲まれていて窮屈だから、少しでも紛らわすためにこの近くから低い木を引っこ抜いてきて植えてるらしいぜ。俺はそこの木に咲いてる真っ赤な花が綺麗で好きだ。」
「そうなのか。取り敢えずこの運動場からの脱獄は現実的じゃないな。」
「そうだな。おっともう休憩が終わる。続きは夜飯の後の自由時間に話そうぜ。」
そのまま組立班長の囚人に連れられ刑務作業に向かった。俺の作業場は1階で浩太は2階らしい。刑務作業中黙々と作業をしていたが、遠くで作業をするかなり体格が良い男に睨まれている気がした。
「今日もよく働いて疲れたなぁ。お前は初めてでより疲れたろ。」
夕飯の時間になり、浩太が話しかけてくる。
「疲れたし飯が少ないから力が出ないな。」
「そればっかりは仕方ない。ところで、計画はどうなった。」
「これしかないだろうなって逃走手段は思いついた。けど問題点が山積みだからまだまだ考えなくちゃいけない。」
「おおそうか!逃走手段があるなら安心だ。刑務所の外は人里離れた荒野だからな。普通に逃げたんじゃ大変だ。」
「お前、ここが本当に荒野だと思ってるのか。」
「…違うのか?看守はみんなそう言ってるぞ。」
「俺も2人の看守から聞いたが、荒野だとしたらおかしな点がある。」
「マジかよ。じゃあここはどこなんだ。」
困った顔で浩太の質問に答えた。
「…ここは無人島だ。」
…続く。
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