第4話「家族愛」

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第4話「家族愛」

「お前から聞かなきゃいけないことがある。」 「なんだ?」 「お前が脱獄する理由だ。前聞いた時より詳しくな。」 「…わかった。お前には話そう。」 俺は話を整理するために少し黙った。そして辺りにこちらの話を気にしている者がいないことを確認して話しはじめた。 「弟の裕二(ゆうじ)は18で結婚した。そして5年前に息子を授かった。俺にとっては甥だな。」 「幸せそうじゃないか。」 「そのはずだった。お前なら気持ちをわかってやれると思うんだが、甥は生まれつき病気をかかえてた。何年も治療をしないと治らない大病だ。」 「それは気の毒に…。」 「お前は優しいな。けど弟家族の不幸はそれだけじゃない。弟の妻、俺の義理の妹まで病気になった。癌だよ。」 浩太は本気で同情しているらしく、顔を歪めた。俺はそれに気づきつつも話を止めずそのまま続けた。 「弟に職はあって、まともに働いてはいたが甥と義妹、2人分の治療費を稼げるだけの給料はもらってなかった。しかも少し借金もあってその返済もしなくちゃいけなかったから、治療費の工面は絶望的だった。」 「…それでどうしたんだ?」 「やっぱりそこには食いつくか。弟はお前と違って犯罪を犯すつもりはなかった。なんとか弟でも就ける高給な職を探して転職した。そしてなんとか金を工面できて2人とも元気になった。」 「良かった。」 「いや、良くないんだ。学歴も低く資格もない弟が就ける高給な職だ。まともな職なわけがなかった。表向きは大手グループ傘下の普通の会社だ。だが実態は酷いもんで、裏で悪事を働いてる。もちろんがっつり法に触れるやつな。」 「…そういうのって本当にあるんだな。」 「金が入ればなんでもいいって組織でな。犯罪は何から何までやってる。内情が知られたら困るから、抜けようと思うなら命を捨てる覚悟が必要だ。ヘマをしても殺される。弟は決して完璧な人間じゃない。性格や能力を考えると今殺されずに働き続けているのが奇跡なくらいだ。」
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