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生まれ出ずる悩み
『脳ガン』という言葉。この話に一同はシーンとなった。男子高生が詳しく尋ねると競馬男は頭痛が取れず目眩がすると話した。
「だからもうすぐ死ぬんだ。好き勝手にやった人生だったよ」
「もしかして、それは朝起きた時ですか」
「そうだよ。目が回ってグルングルンで」
「もしかして。雨の降る前の日とか。春先とか秋ですか」
「そうそう!それだよ!」
男子校生は、それは耳鼻科だと話した。
「三半規管ですよ。よくある症状です」
「耳鼻科?」
「ええ。『脳ガン』なんてありませんから。それなら効く薬がありますよ。僕の家は医者なので」
ここで急に株が上がった男子高生は、へえと感心された。
「試しに。薬局で売ってる車の酔い止めを飲んで見てください。それで治るなら病院は行かなくて平気ですよ」
すると女子高生が急に彼から離れ出した。
「どうしたの」
「いや。医者の息子だったなんて」
彼女は急に俯いた。
「私の家はシングルマザーで。お母さんはトラックの運転手なんだ。あなたのような金持ちの人は、私なんかと話が合わないよね」
悲しそうな女子高生。しかし彼は必死に語った。
「親の職業は関係ないよ」
「ううん。私なんか友達にもなれないよ」
「そんなことないのに」
これを見た小学女子がジャージ男子にささやいた。
「ん?なんだって。ああ、そうか」
これを彼は伝えた。
「彼女が言っているのは。『お姉さんは金目当てで近寄ったって思われるのが嫌なんじゃないか』と言ってます」
「すげえ深読みだな!」
競馬男の驚き。しかし女子高生はまだ落ち込んでいた。
「……あのさ。そんなことないよ。君は知らなかったじゃないか」
「……」
女子高生の心の傷。これを思った一同は世の中のお金の力を知っていたので何も言えなかった。この時。老婆が口を開いた。
「お嬢さん。私の家は貧しかったけど、私があまりにも美しかったので夫に懇願されて結婚したのよ」
今はそうではない彼女は、結婚当初。姑にそれは虐められて苦労したが、今は幸せだと話した。
「女は望まれてこそです。それにお母さんの職業。トラックの運転手も立派な仕事ですよ」
「俺もそう思います。かっこいいし」
老婆と大学生の後方支援。彼女はちょっと顔を上げた。
「じゃ。友達から始めよう。な?」
爽やかな彼の笑顔に女子高生はうんとうなづいた。これに一同はまた拍手をした。
「いいな……さて。今度はジャージ少年か」
「俺はないっす」
すると彼の隣席の小学女子がうるうるの目で彼を見上げた。
「私。聞きたい」
つづく
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