114人が本棚に入れています
本棚に追加
事件です
「そうだ。落ち着くんだ」
「お前がまず落ち着けよ」
「あの。どうしてわかったんですか」
女子中学生の質問。部下は静かに答えた。
「警察無線を拾っている人がいて、その人がネットにそれを乗せているんですよ」
冷静な部下。社長は早口で指示をした。
「そんなことはいいから。お前、どうなってるかもっと調べろ」
「はい」
どこか機械的な部下。怖がる女子中学生は高校男子にしがみついていた。
「一体、どうなるんだよ」
唸る作業員おじさん。彼女も頭を抱えた。
「おそらく。電車を停めたら爆発させる、とか言っているんでしょうね。だから停まらないんだと思いますよ」
静かになった車両。ここに隣の車両から女性が入ってきた。
「恐れ入ります。鉄道警察の、あ?あの時の」
「あの時の女子高生さん?私たちのこと、覚えてます?」
「……覚えているに決まってるじゃないですか」
再会を喜ぶ化粧をした大人女子。あまりの嬉しさに全員とハイタッチしていた。
「それで。あなたは、今は警察なの?」
「あ?そうでした」
そんな彼女、警察手帳を見せ、非番でこの電車に乗っていたと話した。
「隣の車両で痴漢が多いので向こうにいたんだけど。あのですね。この車両の不審物を調べます」
「やっぱり。爆弾かよ」
「どうして知ってるんですか?」
驚く彼女に、社長は部下の説明をした。
「俺たちも協力するよ。まずは不審物を探せばいいだよな」
「探すだけですよ。決して触らずに」
頼りになる大人になった彼女。嬉しさを抑えて全員でこの車両を確認したが、何もなかった。
「三両編成だから。あとは隣を調べればいいんでしょう」
彼女の声。警官娘はうなづいた。
「そうですね。私、行ってきます」
「お待ちください」
ここで社長の部下が遮った。
「犯人もこの電車に乗っている可能性があります。あなたはさっき、誰にも気づかれずに不審物を探したんですよね」
「はい」
「この車両に犯人はいないようですけど。もしかしたら隣にはいるかもしれないですよ」
彼の推理にシーンとなった。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
作業員おじさんのもっともな疑問。ジャージ男子もうなづいた。部下は淡々と話した。
「いいですか。一両目にも、この二両目にも不審物がないのなら。あるのは三両目です。それ以外は犯人が手荷物で持っていることになります」
「そうかも。私が調べて犯人に刺激を与えるのはまずいですね」
するとジャージ男子が手を挙げた。
「ここにはないんだから。三両目の人を、こっちに移動させて。何気に探せばいいんじゃないですか」
この話。彼女も隣の車両を見た。
「そうね。お子さんもいるようだし、人が少ないもの。理由をつけて、こっちに来てもらいましょうよ」
「わかりました」
警察女子は理由を言わずに、三両目の乗客を二両目に移動させた。そして一人で調べていた。
乗客達は一体何が起こっているのか不安になっていた。
「ママ。怖い」
「大丈夫よ」
不安がる子供や女性達。警察女子はきびきびと調べていたが、皆、不安になっていた。
「ママ。僕、降りたい」
「待ってね。もうすぐよ」
しかし。母親が抱いていた赤ちゃんが泣き出した。一緒にいた幼児も泣き出した。
すると中学女子が幼児の手を取った。
「あのね。お姉さんと遊ぼう。折り紙やってみる?」
「うん」
この間。彼女は授乳できるように、調べが済んだ誰もいない三両目に案内した。
「お子さんも面倒見てますし、誰も来ないようにしますので。心配しないで」
「ありがとうございます。でも、何があったんでしょうか」
母親には何も言わず彼女は二両目に戻った。すると乗客達はさすがにネットで事件を知り始めていた。
「おい。お前、警察なんだろう?何とか言えよ」
「すいません。落ち着いてください」
「何が起こっているかくらい、言ってくれよ」
この騒ぎ。幼児も泣きそうになっていた。
すると作業員おじさんが席に立った。
「おい!てめえら。静かにしろ!いい大人が恥ずかしいと思わねえのか」
一喝。これにシーンとなった。
「このお姉ちゃんは非番で、たまたま乗っていただけなんだ!それなのに、俺たちを助けようとしてるんだぞ。少しは協力しろ!」
沈黙の電車。この時、ジャージ高生は段ボールを持ってきた。
「みなさん。運転手さんから。お茶です。まずは飲んで下さい」
緊急用のお茶。これが電車内にあると知っていた彼。自ら確認し、持ってきたお茶。これを配布し始めた。乗客もやっと冷静になってきた。
「良い……いいぞ。そして、社長。これで、どうすればいいんだ?」
席をおりた作業員おじさん。これに反し、先ほどから部下と事件を勝手に捜査している社長。こっちに来い、と作業員おじさんを呼んだ。彼らは三両目に移動した。
「あのですね。この中に犯人がいるかもしれないので、話はまずいですよ」
「マジか?」
「静かに!でもですね。警察はもうすぐ犯人を特定すると思います」
部下の話。彼らは聞き入った。
「犯人を電車の外で確保しても。やはり爆弾は確認すると思います。だから。おそらく、これから電車の速度を落とし、爆発処理班が乗り込んでくるかと」
そんな話の中。電車の速度がゆっくりになった。
最初のコメントを投稿しよう!