みんなの過去

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みんなの過去

「は!」 倒立男子は成功したが、おへそをみんなに披露した。恥ずかしそうな彼にみんなは拍手した。 「次は誰だ。高校生か」 「いい加減にしないか。全くふざけているよ」 サラリーマンは眉間にシワを寄せた。 「私は急いでいるんだ」 「……そうですかね」 真向かいに座る大学生はスッと立ち上がった。 「先ほどから見ていましたが、あなた無職でしょ」 えええ!と?一同は声をあげた。サラリーマンは睨み返してきた。 「な、何を根拠に」 「そのスーツの会社バッチは旧式。最近デザインが変わったんです。それに」 ちらとパソコンの画面を覗いて冷たい笑みを浮かべた。 「やっぱり。あなたは会社を辞めたのに家族に言えずに。こうして一日中、電車に乗っているんですね」 「……」 「わかるんですよ。でも、そろそろ家族に言えばいいじゃないですか」 やんわりとした空気。大学生の言葉に一同はうんとうなづいていた。サラリーマンは、諦めたように呟いた。 「言えるわけないだろう。まだ家のローンがあるんだ。妻は握り飯まで作ってくれて」 「握り飯?ああ、やっぱり奥さんは気がついているんじゃないですか」 「え」 「電車内で食べやすい工夫をしていますよ」 「なんだって」 大学生の推理にサラリーマンは愕然としていた。ここで歌い終えた彼女も励ました。 「もしかして奥様も気がついて。心配しているかもしれないですね。それと再就職は?」 「同じ職種が無くてね。探しているところさ」 シーンとなった時。大学生もため息をついた。 「僕もなんですよ。ベンチャー企業を立ち上げたくて資金を集めているんですけど。なかなか集まらなくて」 「どんな仕事なんですか」 男子高生の質問。すると難関大学の学生だと名乗った彼は高齢者へのサービス提供の会社だと説明した。 「独身の高齢者って。なかなか賃貸の部屋が借りれないんですよ。なぜだかわかる?そこの、女子高生」 「え?お、お金がないから?」 「違う。じゃ。男子高生」 「部屋で……亡くなるからじゃないですか。後処理に困るから」 「その通り」 大学生は立ち上がり話し出した。 「でもね。高齢者は古くて狭い部屋でいいし、綺麗に使ってくれるんだ。それに年金があるから、家賃もきちんと入れてくれる。だから僕は、亡くなった後のことを契約して入居してもらって。そして週に一回、入居者を確認するサービスの会社を起こしたいだ」 「へえ。すげえな」 競馬男の感嘆の声。大学生は遠くを見た。 「今の日本を作った人達が、住むところがなんて……そんなことがあってはならないですよ。おかしいし、許されないですよ」 この力説。老婆が目を見開いた。 「素晴らしいわ。そして、資金はどれくらい欲しいの」 「最低一千万円は」 「私が出してもいいわ」 えええと驚く中、老婆は微笑んでいた。 「私は子供もいないし。株投資よりもその会社の方が面白そうだわ」 するとお爺さんが話に入ってきた。 「君は厚生省に顔が効くのかね」 「いいえ。これから手続きとか面倒なんですよね」 「わしが相談役をやってやろうか」 爺さんは足を組み直した。 「わしはこれでも元官僚だ。金はもう要らないが、お前さんの会社に興味がある」 すると娘さんもうなづいた。 「学生さん。あなたその会社のオフィスは決まったの?」 「まだです」 「よければうちのビルを使ってよ。古いアパートもあるからどうぞ」 「皆さん?どうして他人の僕にそこまで」 「これは縁ですよ。ねえ。みなさん」 老婆とお爺さん。それに娘さん微笑んだ。 これを聞いていた高校カップルはすげえと顔を見合わせていた。小学女子はよくわかってない様子。ジャージ男子が優しく耳打ちして教えてあげていた。 「あの、君」 「なんですか?」 サラリーマンは立ち上がり、大学生にスッと頭を下げた。 「君の会社に私を入れてくれないか。今までは福祉関係の仕事をしていたんだ」 「頭なんか下げないでください。……まずは面接ですよ。ね?話し合って決めましょう」 これに競馬おじさんが拍手をした。 「いい話じゃねえか……泣けてきたぜ」 これに女子高生はツッコミを入れた。 「おじさんは何かないの」 「そうですよ。僕たち聞きたいです」 二人の高校生に諭された競馬男、そうか、と新聞を席に置いた。 「俺はさ。実は『脳ガン』なんだよ。もうすぐ死ぬんだ」 つづく
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