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輪になって
美少女にそんな目で見つめられた少年。思わず言葉をこぼした。
「はあ。進路で迷っているだけですよ」
中学生の彼は受験校を迷っていると話した。
「俺はカバディができる高校に行きたいんですけど。親は許してくれなくて」
「カバディ。なんだそれ」
競馬男の話。これをサラリーマンがドッチボールみたいなスポーツだと話した。
「わかんねえな。やってみろ」
「ここでですか?」
競馬男の無茶振りであったが、一同はルールを聞いていた。
「七対七でやるんですけど。攻撃の時は、一人で敵陣に行くんです。そして相手をタッチをして自分のコートに帰ってくるんです」
「じゃ、相手はそれを交わしたり、お前を捕まえるわけだ」
「そうです。捕まると潰されますね」
この攻撃の時、カバディと言い続けないといけないと話した。
「敵を触ろうとしながらずっと『カバディカバディ』って言うんです」
「きついなそれ?」
「攻撃時間はどれくらいなの」
「30秒で、辛いですね」
「カバディの説明はもういいわ。彼の相談に乗ってあげてください」
老婆の仕切りで話は元に戻った。これを聞いたサラリーマンは顎に手を当てた。
「それだけだから親は不安なんだよ」
サラリーマンの話によると、もし彼がカバディができなくなった時、その高校に行く意味がなくなるからと語った。
「親はそこまで心配するもんさ」
「じゃ。どうすればいいんですか」
するとお爺さんが真顔を向いた。
「自分はこれから何を学び、そして先の進路をどう思っているか、親に言えば良いと思うな」
老齢が輝く叡智。一同はこの老人にうなづいていた。
「……将来ですか。俺は高校のカバディで完全燃焼したら、消防に入りたいんです」
するとサラリーマンは反応した。
「いいじゃないか。それを親に話してみなさい」
老人の娘さんもうなづいた。
「ご家族は安心するわよ。消防なら公務員だし。いいわよね」
大人たちに背中を押された彼は、隣で甘える小学女子にも良かったね。と言われて頬を染めていた。
「後は葬式屋の姉ちゃんか」
「やはり私も話すんですね、実はですね。この際だから相談に乗ってくださいね」
この電車をよく利用している彼女は、運転士に恋をしていると打ち明けた。一同の興奮は最高潮になった。
「来た来た来た来た!お姉ちゃんは裏切らねぇな」
「おじさんはうるさい!お姉さん。早くお願いします」
元気が出てきた女子高生。彼女は意を決して話した。
「詳しく言いますと。アナウンスの声なんですよ」
女子高生もうんとうなづいた。
「ああ。いい声ですよね。この路線は」
「わかる?実は、今日のアナウンスの人なのよ」
乙女の心。男子校生は腕を組んだ。
「片思い、か。しかも声ですよね」
アプローチのしようがない一方的な思い。彼女の胸の痛みを思い、一同はしんみりしていた。誰もがアドバイスのない内容。しかし、彼女は立ち上がった。
「いいんです。皆さんに聞いてもらっただけで、スッキリしました。さあ。飲み物でも飲みますか」
ここで彼らは水休憩した。そしていつの間にか爆睡したのだった。
つづく
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