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懐かしい顔
「さぶ?」
雪の日。電車の中。疲れた彼女。乗り込んだ電車のつり革に捕まった。そして目を瞑っていた。
窓の外は白い世界。結露で濡れる窓を見ていた。
ここで電車がガクンとなった。
「きゃあ?おっとっと」
空いていたため、彼女のよろめきは誰にも迷惑がかかっていなかった。
「おい、姉ちゃん大丈夫か?」
「はい」
「何だ。またあんたかよ?」
「あ、あなたはあの時の?」
「葬儀屋の姉ちゃんか」
目の前に座っていた作業着姿のおじさんは、いつかの夏の日。ストップした電車で一緒になった競馬おじさんだった。
「懐かしいな。おい、元気してたか」
「そちらこそです。あの、就職したんですか?」
この話の時、誰かが彼女の肩を叩いた。
「お姉さん。私です」
「嘘?あの時の小学生の娘さん?」
「はい。また一緒ですね」
彼女より大きくなった彼女。もう中学生だと話した。
「私。あの時以来、この車両しか乗らないんですよ」
「そう?しかし、すっかりお姉さんになったのね」
あの時美少女だった彼女。しかし今は少しぽっちゃりしていた。太るこの年頃。顔のニキビも可愛らしく見ていた。
「すごい偶然、って、もしかして。そこにいるのは」
「はい。俺たち、付き合っているんですよ」
あの時のジャージ少年。今は高校生になり交際していると恥ずかしそうに話した。
背も高く筋骨隆々の体。少年は青年を通り越し、おじさんぽくなっていた。
「まあ、こうやって一緒に帰るだけですけど」
「いやいや。月日は過ぎるものね。あ、あれは」
電車の隅。ぐうぐう寝ている男性がいた。
「お姉さん。もしかして、あの人、大学生だった人じゃないですか」
「そう?ずいぶん、雰囲気が違うけど」
この声に起きた彼、目を擦っていた。
「ん……あ?うそ?あの時のメンバーじゃん?」
スーツ姿で決めていた彼。会社を立ち上げたはずの彼は、にっこり微笑んだ。
「あ。隣の彼は俺の部下で、例の相談役の孫さんです」
「どうも」
挨拶した彼は若い年齢。神経質そうに眼鏡を上げた。その時、アナウンスが流れた。
『お客様に申し上げます。この電車は現在、諸事情により駅を通過します』
「え?まあ、あそこは無人駅で関係ないけど」
「どうしたんですかね」
「まあ、座りましょうよ」
空いているこの車両には彼女、中学女子、ジャージ高校生。作業着男。そして会社社長と若い部下の六名しか乗っていなかった。
「懐かしいな。あの、あの時一緒だったサラリーマンさんも正社員で、元気ですよ」
「お婆さんも?あの、お爺さんも?」
彼女の質問。社長はうなづいた。
「ええ、生きてます。あの娘さんのビルで会社をやってるんですよ」
「よかった……みなさん、元気なんですね」
葬儀屋に勤務の彼女。ひとまずみんなで客席に座った。
左右に一列並びの車両。横に並んでおしゃべりする彼らであったが、異変に気がついた。
「ねえ。お姉さん。さっきからどうして駅に停まらないの?」
「……おかしいわね。この電車は各駅停車なのに」
隣の車両を見るとやはり乗客が騒いでいた。この時、ジャージ男子が何気に窓の外を見ていた。
「あ。見てください。パトカーがあんなに」
「キャ?」
「真っ赤だし。これは事件かな」
踏切を渡る際、こちらを見ていた警察関係者。彼女達は息を呑んだ。
「これって。事件とか?」
彼女の声。これに社長の部下がスマホで調べた。
「そうですね。事件です。この電車に爆弾を乗せたと脅迫メールが来ているらしいです」
驚く彼らであったが、社長がまず落ち着けと言った。
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