その1

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その1

「いいところだね。」 タクシーを降りて、アイヴィーは誰にともなくつぶやいた。 車はしばらくの間、緑の多い静かな道をひた走り、やがて左手にそのお寺が見えてきた。 「車で中の方まで入れますよ」という運転手の申し出を断って、アイヴィーは参道をぶらぶらと歩き出した。 岩手県の早朝、初夏。 高円寺のムッとする暑さと違って、空気だけで生きていけそうな気分。しばらく帰っていないアイヴィーの地元に、ちょっとだけ似ている。 Tシャツに短パン、なんてラフな格好の方が楽だけど、今朝はバシッとキメてきた。ガーゼシャツに赤黒タータンチェックのスカート、Dr.マーチン。赤いライダースは肩に引っ掛け、フワフワ揺れる赤い髪の上にはいつも通りベレー帽が乗っている。 昨夜はライヴからの打ち上げで遅くなった。まだ何時間も寝ていない。それでもアイヴィーは早朝に目を覚まし、メイクをきっちり施して服を着替え、ひとり駅前に出てきた。 これから、仲間に会いに行くんだから。
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