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犬神。
それは餓死寸前の犬の首を切り落とし、作られた犬の怨霊。
犬神は術者の願いを成就させる事も出来るが、その残酷さ故に怨念は深く一歩間違えればその呪いは術者に跳ね返り、代々一族を祟る。
それを犬神憑きと言い、一族は破滅へと追い込まれてしまうとても危険な術で、そうした生き物を用いた呪術を「蠱毒」や「蠱術」と呼ぶ。
「調伏したばっかなんだよね。
可愛いでしょ?」
「まぁ、確かに可愛いですけど……
大丈夫なんですかそれ?」
見た目は確かに可愛いワンコだ。
だが犬神を使役することは大きなリスクを伴うことは妖の知識に乏しい真尋も知っていたし、第一この犬神はただならぬ妖気を放っている。
「問題ない。
ちゃんと躾けたし、丁度欲しかったんだよね。
使える式が」
よしよしと撫でる利音に犬神は尻尾を振りよくなついているように見える。
その様子に真尋は目の前の怨霊など忘れてしまったかのように「なでなでいいなぁ、自分も触りたい」なんて呑気な事を考えていた。
そうした状況下で忘れられかけている黒いモヤの怨霊は利音の束縛術の綱を一本ぶちりと破る。
「そろそろヤバいな。
真尋、これもって先に行け。
俺は後から追いかける」
そう言って投げ渡された呪いの笛。
飛んで行く方が早いでしょと勝手な事を言われるが、正直拒否したい思いでいっぱいだ。
しかし目の前の怨霊は考える暇を与えてくれそうになく、笛を受け取った真尋に照準を変えた。
「マジか……」
利音に言われるがまま背中から漆黒の大きな翼を出現させ、羽ばたかせると羽を舞わせながら体を宙に浮かせる。
「へぇ………」
初めて見る真尋の妖の部分に興味深そうに利音は僅かに口角を上げた。
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