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突如空に現れた黒いそれは、まるでブラックホールのようにも見える。
何やら危険な香りのするそれを見つめていると中心から妖が現れる。
それも一匹や二匹ではない。
沢山の魑魅魍魎らがそこから現れる。
そしてその魑魅魍魎の中から一際強大な妖気を放つ男の人の形をしたその妖が中心から現れる。
狩衣に烏帽子を身に纏ったその妖の男はまるで平安貴族のようで、更に端正な顔立ちをしている。
男は利音らに目を向けると、そちらに足を向ける。
「一連の事を見ていましたよ。
とても面白い方だ」
利音の前まで来ると、穏やかな口調で笑みを見せながらそう話す。
笑顔ではあるが、真っ黒な瞳が全てを飲み込んでしまいそうな恐ろしさを感じる。
「アンタは?」
突然現れ、話し掛けられた利音はそう訊ねる。
すると彼はにっこりと笑い、自己紹介を始める。
「おっと失礼、申し遅れました。
私、山ン本五郎左衛門と申します。
以後、お見知り置きを……」
「………っ!?」
「山ン本……!?」
噂をすれば何とやら………
まさか本人からやって来るとは誰も思わず、周りの妖や山ン本のただならぬ気配を感じて見に来た妖も、ざわざわと騒ぎ始めた。
「祓い屋の利音君、でしたっけ?
手形が欲しいと……?」
「………まぁ」
この男、一体何処で聞いていたのか……
近くにいなければ知り得ない筈なのにと利音は警戒する。
ただ者ではない。下手をすれば殺られる。
そう思うくらいの妖気を放っている。
「まあまあ、そう固くならないで下さい。
私は貴方方を気に入りましたのでね、ここへ参った次第です」
主が昔言っていた食えぬ奴とはこう言う事かと緋葉は思った。
対応を間違えればこちらの身が危ないと……
こんな緊迫した中、一人別の方を凝視しているのは真尋だ。
黒い塊から現れた様々な種類の魑魅魍魎は山ン本の眷属だろう。
彼の後ろに控える彼らの中に鹿の形をした妖がいた。
その鹿の妖をじっと見つめていた。
そんな真尋の様子に気付いた緋葉。
何か気になる事でもあるのかと真尋へ言葉を掛ける。
「何か怪しいものでも?」
怪しい気配でも感じたのかと緋葉は緊張感を増すが、真尋から返ってきた言葉に気が抜ける。
「いや、なんかすっげぇ奈良に行きたくなった」
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