狭間(参)

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 山ン本に異を唱えた瞬間、その妖の首が飛び、胴体は地面へ倒れた。 「…………っ!!」  何故首が飛んだのか。  その理由は明らかで、山ン本が手を翳した瞬間その妖が死んだ。  殺しの目をした彼に流石の真尋も警戒感を滲ませる。  しかしその直後、山ン本はにっこりと笑顔に戻る。 「申し訳ありませんね。 ただ私は誰かに指図されるのは嫌いですので」  その言葉に周りの妖は静かになった。 「では利音君、手を」  手を出せと言われ躊躇していると、傷付けたりはしませんよと心を読んでそう言われたので素直に手を出した。  すると山ン本は何処からか筆を出したかと思えば、利音の手に何か文字のような物を書いた。  しかしその文字は読めない。  古い文字にも造詣がある利音でさえ、読めないのだから、そもそも文字ですら無いのかもしれない。  しかもその文字のような物はスッと消えてしまった。 「私の(いん)を書きました。 これで陽炎では誰も貴方に手出しは出来なくなりました。 但し、陽炎を破壊しようとすれば別ですが」  特権を与えつつもそう釘を刺した。  利音も利音で、自分の意に沿わない相手に容赦ない山ン本をわざわざ敵に回そうとも思わない。 「ところで、アンタのその姿は本当の姿?」  誰も知らないと言う山ン本の本当の姿を直接聞く利音に周りは凍り付いた。  何が地雷か分からない相手に臆すること無く聞くのだから……  たった今の出来事を忘れたのかと。    だが、周囲の心配を他所に山ン本は笑みを浮かべたままだ。  そして人差し指を唇に当ててこう言った。 「内緒です」  この平安貴族のような出で立ちで美男子の容姿もまた仮の姿なのかもしれない。  決して本当の姿を見せない彼の底知れぬ不気味さは十分に注意しなくてはならない。 「さて、そろそろ帰りますか。 楽しい余興を見せて貰いました。 ありがとうございます。 またお会いしましょう、利音君、真尋君」  そう言って山ン本は沢山の眷属を引き連れながら去って行くその姿は、さながら百鬼夜行のようだ。
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