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山ン本が去ったのを見届けると、ずっと地面に胡座をかいて座っていた高はすげぇなと笑いを上げる。
「まさか山ン本からやって来るたぁ恐れ入った。
まぁなんだ、また来るときは俺んとこに来いよ。
ここいらで飲んでっからよ」
どうやら高にも気に入られたようだが、利音は大儀そうに嫌だと断った。
彼とは正直今後関わりたくない。
取り敢えず安達も見付かったし、利音のお目当ての通行手形も手に入れた。
今日はもうこれ以上ここにいる必要も無いので、そろそろ帰ろうかと言う話しになる。
因みに帰りは緋葉が知っている正規の出入口を使用する。
真尋達は緋葉の道案内で無事、家に帰る事が出来た___
そんな彼らの様子を建物の二階から見ていた六華は、クツクツと笑う。
「あの山ン本を引きずり出すとは………」
感心したように呟く彼の後ろからそっと傍にやって来てしゃがむ、眷属の女天狗、紅。
「探しましたよ。
勝手にふらふら出歩かれると困りますと何度言えば……」
クールに淡々とそう説教される六華は煙たい顔をする。
「別にいいじゃないか。
俺が何処で遊ぼうが俺の勝手。
現に面白い物が見れたのだから放っておいてくれ」
六華の方が主だと言うのに彼女はまるで保護者のように小言を言うので、おちおち遊んでも入られない。
それでもお互い信頼しているので、六華は彼女の小言も許しているし、紅も遠慮無く説教出来る。
「あの青年二人ですか?」
六華の面白い物の事を訊ねる。
紅もあの騒動を見ていたようだ。
「山ン本までも目を付けるなんて運が悪いとしか思えないね。
あれは誰にも手が付けられない、面倒な相手だ。
俺もなるべく関わりたくない」
魔王と呼ばれる山ン本は大物の妖でさえ敬遠する存在である。
昔赤い顔に長い鼻の大天狗の姿をした山ン本と飲み交わした事があった。
六華は彼らが去り、紅と同じ読み方の高が周りの妖に介抱されながら目の前の店に入っていくのを眺め、そんな遠い昔に思いを馳せていた。
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