339人が本棚に入れています
本棚に追加
宣言通り、真尋はお盆の時期に秋人の家に帰った。
その道中、昼間なのにこの世のもので無いものが普段より多いと感じた。
おそらく夜になればもっと増えるんだろうなと思う。
お盆の時期は霊界の門が開くと言われるが、本当の所は所謂地獄の門であり、そこから沢山の霊を含めた妖がやって来る。
一般的にご先祖様が帰ってくると言われるが、実際は底辺の霊がやって来るだけで、未練があって成仏しなかった訳でもないなら、ご先祖様が帰って来る事はない。
しかしながら霊界と繋がりやすくはなるので、霊と交信出来る人はイメージを受け取りやすくなるだろう。
真尋にとってお盆とはあの世とこの世の境目が薄くなる時期である。
「最近はどうだ?」
「ん~特に変わんない」
秋人の家で冷たい麦茶を飲みながら会話をする。
「今年も墓参りは行かないのか?」
「行かない。
あんま意味ないし」
お盆と言えば墓参りも定番なのだろうが、別に先祖が帰ってくる訳ではないし、大事なのは先祖を思う気持ちだと知っているので、わざわざ親族が来るかもしれない時期を狙って行くことはない。
何せ親族には真尋も会いたくはない。
事情を詳しく知らない親戚もいるので、根掘り葉掘り聞かれるかもしれないのは億劫だ。
「今年も時期を見て一緒に行こうよ」
「ああ、お前がいいなら………」
秋人と暮らすようになってからは彼と一緒に、親族が誰も来ないであろう時期に行っていた。
その墓には秋人の母や妻、息子の骨も眠っているので、秋人は誰も来ない日を狙って昔から毎年墓参りには行っていた。
すると秋人はおもむろに口を開いた。
「実は……そろそろな、引っ越そうかと思っている」
「え?」
「ここにはもう10年近く暮らしている。
周りも私に違和感を覚える者も出て来るだろうからな」
歳を取らない秋人は一定の年月が経てば怪しまれる前に引っ越していた。
真尋も家を出たし、ここに住んで10年が経とうとしていたので、そろそろ潮時と思い引っ越しを考えていた。
しかし、そんなことまで思いが至らなかった真尋は、慣れ親しんだこの家に帰れなくなる事にショックを抱いた。
最初のコメントを投稿しよう!