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折角帰ってきたのに、今度は母と約束して出掛けてしまう事に少し秋人への罪悪感がありつつも、秋人も会える内に会いなさいと言うので、行ってきますと家を出る。
待ち合わせの駅前に行くと、既に母が待っていた。
「母さん」
「あ、真尋」
後ろから声を掛けると振り返って満面の笑みで真尋の名前を呼んだ。
真尋とそっくりのその顔立ちは誰が見ても親子だと気付くだろう。
二人は近くの中華の店に入って久々の会話を楽しむ。
「学校はどう?楽しい?」
「うん、まあまあかな?」
授業は楽しいかと言えばうんとは言えないが、友達とは楽しい日々を送れている。
母は学校の事から生活の事、バイトの事を根掘り葉掘り聞こうとしてくるので、少々戸惑う。
当然親としては息子の事は些細な事でも聞きたいと思うだろうが、聞かれる方は面倒になる。
なので今度は自分が色々と質問を投げ掛けた。
「そう言う母さんはどうなのさ?
仕事大変なの?」
看護師てしてフルで働くとなると母の年齢では大変だろうなと想像する。
しかし母の口からは思っても見ない言葉が帰ってきた。
「実はね、仕事してないの」
「え、なんで?」
母は現在仕事を辞めていると言うのだ。
その理由を訊ねると、水を一口飲んで話し始めた。
「お父さんがね、病気になっちゃって」
お父さんとは母の離婚した元夫で真尋の父の事だ。
そして父が今年病になり、入院となった言う。
一緒に暮らしていた真尋の姉と兄は家を出て、各々働いているので傍にいてやれないと、母に連絡したそうだ。
「久々に家に帰ったらもう~家の中ぐちゃぐちゃだし、食生活も、酷いのなんの………」
離婚するまで暮らしていた家は父しかいなくなった結果、荒れていた。
元々家事が出来ない父だったので、母がいなくなってからは真尋の姉が家事を担っていたが、その姉も家を出たので荒れるのは必然だった。
「だからね、また一緒に暮らして、あの人が元気になってから仕事再開しようと思って」
そう語る母は少し笑顔だった。
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