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膨大な霊気を秘めた勾玉の形をした水晶。
何故それほどの力が込められているのかは謎である。
しかし、そんなことは微々たる問題で、隠り世に住まう弱きものならば手に入れたいと思うだろう。
空が深い闇に沈み、影に潜む"それら"が動き出す頃に宗像骨董店の蔵のある裏庭に塀を越え、1つの影が降り立った。
静寂に包まれる中にその足音だけが微かに響き、一定のリズムでまっすぐにそこへ向かっていく。
その足音がある場所で止まった。
目の前に聳え立つのは立派な蔵だ。
重たそうな扉の取っ手にその手は伸ばされた。
しかし、その手は扉に触れる事は叶わなかった。
結界にバチリと音を立て弾かれたのだ。
「結界が張ってあるのにも気付かないか?」
「……っ!?」
背後から現れた声に驚き振り向くと、そこには利音と真尋の姿があった。
「雑魚はさっさと身を引いた方がいいよ」
「お前……」
「朝はどうも」
手をひらひらと振って飄々と朝少しだけ会話を交わした女性に挨拶をする。
「で、お探しの物はこちらですか?」
利音がズボンのポケットから取り出したのは蔵にある筈の勾玉の水晶だった。
「それはっ……」
利音の手元にあるとは思わなかった女は驚きの表情を見せる。
「蔵にあるのは気配。
残り香みたいなもんだよ。
それすらも分かんないなんて、よくこれがうちにあるって気づいたね」
「………」
「誰かに聞いた?」
「………」
何も答えない彼女に段々イライラしてくる。
「いいよ、無理矢理でも口を割らせてあげるから」
「利音さん?
一応あの人外側は普通の人ですよ?」
中身は妖だろうが身体はただの人だ。
まさか彼女を傷つけはしないだろうかと心配する真尋を他所に、利音は一歩二歩と前に出る。
そして五芒星を描き二本指を胸の前にに作る。
「滅」
五芒星は一直線に女性へ放たれた。
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