家族

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 父が病気になり一緒に暮らし始めた母は、案外それが苦では無いようだ。 「それでね、お父さんと改めて色々話してね、ごめんって言ってた」 「………?」 「多分自分がああなって考え方も変わったんだと思うんだけど……… 真尋にも謝りたいって」 「え?」  思ってもない言葉に真尋は一瞬思考停止した。  だって父が謝りたいと………  あんなに気味悪がっていたのに…… 「お父さん、真尋に会いたいって」 「………っ!?」  そう言われて言葉に詰まる。 「まぁ、嫌よね。 無理に会う必要も無いわ」  真尋が家を出る時、父は目を合わせる事すらしなかった。  それを考えたらいくら父でも会いたいと思わなくても当然と母は言うが、本当にそれでいいのか……? 「………俺、会ってもいいよ」  きっとここで会わないと後悔する。  そう思った。  その言葉を聞いた母は何だかホッとした顔を見せた。  会わなくてもいいと言ったが、本音では2人が昔みたいに仲のいい姿を、もう一度見たいと思っていた。  会ってもいいと答えると母はなんとこの場で父に電話して、真尋が会ってもいいと言っていると伝える。  そしてこの後家に行こうと誘ってきた。 「え、これから?」 「善は急げ。 気が変わらない内に行くわよ」  そんな訳で、食事を終えてすぐに家に行った。 「て言うか父さん入院してるんじゃないんだ?」 「ええ、入院して今は家で療養中」  てっきりまだ入院しているものと思ったが、既に退院しているらしい。  そして電車に乗り、駅から15分程歩くと、およそ9年ぶりの本当の我が家へ到着した。  外観は記憶の中にあるまんまである。  母が鍵で玄関を開けて、どうぞと先に真尋が入った。 「た、だいま………」 「お帰り」 「………っ!?」  小さな声でただいまと言うと、玄関の奥からお帰りと返事が聞こえた。  リビングからゆっく現れた男性。  だいぶ歳を取ったが、間違いない、父だ。 「父さん……」 「真尋……」  優しく少し弱々しいその声。  そして見た目も、前は黒かった髪も白髪になっているし、病気をしたせいで痩せて多少やつれているように感じる。  それにこんなに小さかったっけと感じた。  自分が成長したせいなのだろうが、前はもっと大きな人だった気がする。
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