家族

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 久々に会った父を見て、失った年月と言うものを改めて実感する。   「ほら、早く入りなさい」  父に促されリビングへ入ると、部屋はいくつか模様替えされていて、知らない家具もあった。  それでも真尋がいた時から変わらない物もあり、懐かしさと寂しさが入り交じる。  リビングの中央にある以前と変わらない大きなテーブルの席に着くと、母がコーヒーを淹れにキッチンへ行くので真尋も手伝おうとすると、座ってなさいと言われたので父と向かい合わせに座る。  これは昔からの定位置である。  しかしながら何を話していいか分からない二人は暫し沈黙が続いて、キッチンで母がコーヒーを用意している音だけが聞こえてきて、早くこっちに来ないかなと思う。  気まずい沈黙の中、漸く口を開いたのは父だった。 「……すまなかったな真尋」 「………」  父は弱々しい声でポツポツ話し始めた。 「謝って済む問題じゃあ無いが、お前に嫌な思いをさせた。 本当に申し訳無い」 「父さん……」  父は真尋の変化に戸惑っていたと言う。  そりゃあそうだろう。  突然視えないものが視えるようになって、怪我すらもすぐ治ってしまうのはどう考えても異常である。  気味が悪いと、どうしても真尋を受け入れられなかったと言う。    だとしてもそんな事は幼い子供から見れば無責任極まりなく、悲しいものである。  父は今こうして大病して、漸く気付いた。  病が発覚した直後は死ぬかもしれないと考えた。  幸い治療を経てこうして家に帰る事が出来たが、一人では不安で仕方無かった。  そんな中で、元妻が久々に帰って来てくれてどれ程心強かっただろうか……  それと同時に、自分の変化に一番不安だっただろう真尋に、なんて酷いことをしてしまったのだろうかと……  不安な時、一番頼りにしたい親に見捨てられたらと………  そして本当に大切なものは何だと考えて、思い出されるのは真尋の笑顔だった。  やはり、どんな息子でも自分にとってはかけがえの無い息子では無いのかと……  奇しくも病気になって考える時間が増えたことで気付けたのだ。  
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