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少しでも話をしたいとゆっくり歩いて、駅に着いた。
「じゃあ気を付けてね」
「うん」
「何かあったらすぐ連絡しなさいよ」
「うん」
母は名残惜しそうにしているのに対し、真尋はあっさりしていて、じゃあまたと言ってさっさと改札へ急いで行った。
そして秋人の家に戻ると、真尋は今日父と再会したことや母から聞いた曾祖母と祖父の話を振った。
「お祖父ちゃん?って熊に襲われたとか言ってたけどそうなの?」
「………ああ、いや……熊では無いだろうな」
「違うの?」
秋人はあまり話したく無いのか、言葉に詰まる。
「私は、時雄とはあまり長く一緒には過ごしていなかったからな」
時雄とは真尋の祖父、秋人の息子の名前だ。
秋人は半妖で、歳を取らない。
だからこそ家族と長くいると、秋人だけが若いままで怪しまれてしまうと、時雄が10歳くらいの時に家族から離れたのだ。
丁度真尋を引き取った年齢と同じくらいの歳だ。
「たまに彼らが無事かと遠くから見守ってはいたが、時雄が亡くなったと風の噂で知って駆け付けたが………
時雄が亡くなったと言われる場所にはうっすらと妖気が残っていた」
「それって妖が……?」
「あの子は視えてはいたが、天狗としての力はあまり無かった。
もっと私が気を付けてやるべきだったんだ。
そのせいであの子の家族を悲しませてしまった。
お前達も本当なら時雄と………
私のせいだ………」
自分のせいだと自責の念に駆られる秋人は、未だ時雄の死に囚われていた。
生きていたら真尋とも過ごせていたかもしれないのにと……
「そんなの秋人さんのせいじゃ……」
誰のせいでも無いが、どのような言葉を掛けても秋人にとっては無意味なものだろうと、これ以上何も言えなかった。
だから少し話題を変える。
「そう言えば母さんが言ってたけど、写真に写ったその時雄さん?と俺似てるって」
そう話題を振ると秋人はふっと笑みを見せた。
「ああ、お前と初めて会った時、一瞬時雄かと思ったな。
子供の頃からお前達はそっくりだ」
そう話す秋人の顔は穏やかなものだった。
しかしながら性格は全然違って、時雄は真面目でしっかり者だったと言う。
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