340人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日は顔だけの茶碗だったのに、今日は手足が生えていて、家の中を走り回っていた。
「………成長してる」
思わずそう呟いた真尋。
しかしそんな成長が良い方向に行くとは限らない。
走り回る茶碗だが、手足が生えたのが嬉しいのか、テーブルに登ったり棚に登ったり。
そこまではまだいいが、棚やキッチンに置いてある物を落としたりと問題行動を起こす。
「ちょっ…待て待て待て!!
ダメだって!!」
「おい止めろ!!」
茶碗を捕まえようとするが、スルリと躱される。
「縛!!」
利音が術を使うが、茶碗程の小さな物を捕まえるのには向いていない。
しかし逃げた先に緋葉が待っていて、両手で抱き抱えられるように捕まった。
「緋葉ナイスキャッチ」
捕まって安心したが、とうの茶碗はキョロキョロと周りを見渡してキョトンとした表情をしている。
「おい、大人しくしてないと割るぞ」
利音はそう脅すが、あまり言葉を理解していないのか、利音を見て目をぱちぱち瞬きさせるとニッコリと笑う。
「…………」
まるで生まれたばかりの赤子のようだ。
何も分かって無いから教えるしかない。
せめて壺君のように手足が無ければ楽なのだが、どうしたものか……
壺君はあれ程茶碗に興味津々だったのに、自分には無い手足が生えた事で嫉妬に変わり、茶碗をうーうー言いながら睨んでいる。
多分また壺君の隣に置いたら壺君は怒りそうだ。
「仕方無い。
私が引き取ろう」
緋葉がそう言った。
故意に悪戯をしようとしたわけでは無いし、寧ろ純真無垢なように見受けられる。
どうも邪険に出来ないと、緋葉が教育を引き受けた。
それに緋葉に抱っこされ案外心地良いのか、茶碗はリラックスし始めた。
真尋もそんな様子に可愛いなと指でちょんちょんと撫でてやると、気持ち良さそうにすり寄って来て、すっかり心を許してしまう。
それを壺君は不満そうに睨んでいた。
あまり茶碗を可愛がると壺君が嫉妬するので、普段は緋葉が使っている部屋に出られないように結界を張り、置いておく事になったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!